現れ始めた抵抗勢力、社内改革を阻む壁:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(12)(2/3 ページ)
本格的にスタートした改革プロジェクトだが、須藤たちが予想していた通り、やはり一筋縄ではいかないようだ。プロジェクトが進むにつれて、あからさまに阻もうとする“抵抗分子”も現れ始めたのである。
エバ機不正の黒幕は……
須藤たちは、プロジェクトとして向き合うべき2つの問題を抱えている。1つは今、ミーティングで話している『湘エレの立て直し』だ。そして、もう1つが『エバ機不正問題』の原因究明である。会社をこんな状態へと追いやるきっかけとなったエバ機不正の真相を、何としてでも自らの手で暴いてやりたい――。そんな強烈な思いが、須藤がプロジェクトを続ける動機の源泉になっている。なにしろ、須藤たち、開発課が心血注いだ最新のデジタルビデオカメラDVH-4KRが、世の中に出る前のフィールドエバで、“ぬれぎぬを着せられ”商品化を抹殺されたのだから。希望退職で辞めていった社員だけでなく、退職せずに残っている社員の中にも、会社の経営危機を招いた原因が須藤たち開発課にあると思っている人間は多い。
図1は、第6回「エバ機不正の黒幕」の時の登場人物とプロジェクトメンバーの関係図を示したものだ。製造部長の大杉が中心にいそうだが、どうやら、事はそう単純ではなさそうだ。大杉に指示を出した「悪の親玉」はまだ不明なのである。
【品質保証部 小山課長の心中】
品質保証部の小山課長は、エバ機の試験成績書を改ざんした人物である。そのことで、いつ自分が責任を取らされるか、内心ビクビクとした毎日を送っていた。ついこないだ、品質担当役員の北条から、「エバ機の件では大変だったみたいだね、まぁ、しっかりやってくれたまえ! 君のためにも……」と意味深なことを言われたことも気になって仕方がない。
小山は根っからの小心者であるがゆえに、常に他人に対して虚勢を張ることで自分自身の内面の弱さを出さないように保ってきた。これまでISO9001のDRのたびに、技術部が提出した資料に対して、あれこれいちゃもんを付けてきた小山だ。DVR-4KRの試験時に、要求された品質基準よりもはるかに厳しいMILスペックの試験をエバ機の半分の台数で行い、そのまま試験成績書としてCG社(フィールドエバを行ったCG Cinema社)に提出してしまったことが、こんなに大問題になるとは考えてもいなかった。しかし、真実を告げて、自分1人が責任を取らされてもたまったものではない。
話の流れで、製造部の大杉部長には事実を話してしまったが、「君とは一蓮托生なんだよ」と言った大杉が、まさか自分のやらかしたことを暴露するとは思えない。とはいえ、大杉は何を考えているのか分からないから、注意していた方がよさそうだ。今は、「改革プロジェクト」の連中が何やら、会社を立て直すとか言って、あちこちの部門で活動していることのほうが面倒だ。品証としては協力する気はないが、あまり非協力的だとそれはそれで怪しまれる。だから、協力しているふりをして何もやらなければいいだけのことだ。
【製造部大杉部長の心中】
一方、社長からエバ機不正問題の真実を調査するように指示されていた大杉製造部長だが、本気で調査する気などさらさらなかった。海外の製造子会社である湘エレAsiaが勝手にやったことだと小山に話しているが、その実態は性能に大きく影響を与えるA-Dコンバーターの手配について悟られたくなかったからだ。
大杉は、開発課が作成した“特注品購入仕様書”ではなく、複数の代理店から購入可能な安価で一般的な性能しか有さない“共同購入仕様書”で部品手配をするように、購買部の津村課長に指示をした。大学の先輩にあたる大杉から、半ば脅し気味に言われた津村は従わざるを得なかった。権限や権力を手に入れ自身の出世を最優先に考える津村は、大杉から言われたひと言「俺が役員になったら、お前を取り立ててやる」を信じ切っていたのである。
さらに、大杉は製造工程において、回路図や部品定数表との不一致がBOM情報からすぐに発覚しないように、部品情報の入替え指示まで行っていたのだ。既に、設計とは異なる部品が使われていたことが明らかになっているが、なぜ、それが起こったのかは、自分と品証の小山、そして、不正そのものを企て、大杉に指示を出した「真の黒幕」以外は真実を知らない。大杉は念には念を入れ、時間稼ぎにわざわざ海外工場に生産指示を出した。それにもかかわらず、海外工場で生産されたことが、思ったよりも早い段階で明らかになってしまったことは、大杉にとっては誤算だった。だが、湘エレAsiaの村上工場長が口を割らなければいいだけだ。村上は俺の言うことなら何でも聞く。大杉は、ほくそ笑んだ。
いくら社長に調査しろと指示されたところで、大杉にとって面倒な日比野社長は、次の株主総会で退任予定だ。あと少しだけ、のらりくらりとして逃げ通せばいい。もう少しの辛抱だ。現社長側の役員が次の株主総会で皆、いなくなり、「あの人」が代表取締役に就任すれば、俺も取締役の一員に取り立ててくれるはずだ。
とにかく、今一番うっとうしい存在は「改革プロジェクト」の連中だ。名目上であれ、あの中村技術部長がPO(Project Owner)に収まっていることも気に入らない。おまけにプロジェクトの中心的な人物は、生意気な開発課の須藤だ。あいつらの開発したDVR-4KRのエバが全ての元凶であると多くの社員は信じている。表向きは目立たないようにしながら、プロジェクトの活動を邪魔してやらなければ、いつ、真相解明の矛先がこちらに向くとは限らない。
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