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東京大学、原子一個の電気陰性度の測定に成功原子間力顕微鏡を活用

東京大学は、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、固体表面上にある原子個々の電気陰性度を測定することに成功した。さまざまな触媒表面や反応性分子の化学活性度を原子レベルで測定することが可能となる。

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新たな機能性材料の開発を支える

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の小野田穣特任研究員と杉本宜昭准教授らの研究グループは2017年4月、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、固体表面上にある原子個々の電気陰性度を測定することに成功したと発表した。新たに発見した測定手法を用いると、酸化チタンなど機能性材料の開発につながるとみられている。

 2つの原子が化学結合を行う場合、「共有結合」や「イオン結合」およびこれらの中間である「極性共有結合」の形をとる。極性共有結合において、どの元素がどれだけの電子を引き寄せるかという強さを示す尺度が「電気陰性度」である。


化学結合の分類 出典:東京大学

 この電気陰性度はこれまで、周期表の各元素に対して主にガスの反応熱のデータをもとに、多数の原子の集団平均的な量として、1つの値を定めていた。しかも、取り扱えるのはガス状の軽い分子など、熱化学的手法が適用できる試料に限られていたという。

 これに対して研究グループは、電気陰性度の測定にAFMを用いた。AFMは、鋭い針を観察対象に近づけ、針先端の原子と表面の原子との間に働く化学結合力を測定する仕組みである。針に取り付けた板バネのたわみを検出することで、個々の原子上における化学結合力や結合エネルギーを定量化することができる。原子レベルでの元素識別や、有機分子のベンゼン環の可視化などにも利用されている。今回は、AFMを用いて電気陰性度を原子レベルで測定できることを発見した。


左は原子間力顕微鏡(AFM)の模式図、中央はAFMで観察した酸素吸着後のSi表面の凹凸像、右は結合エネルギーと針−試料間距離との関係を示したグラフ (クリックで拡大) 出典:東京大学

 具体的にはまず、酸素原子を対象に測定した。酸素を吸着させたシリコン表面で測定を行ったところ、対象原子のうち酸素原子上で大きな結合エネルギーが働くことが分かった。針先端のシリコン原子と表面の酸素原子の間では、シリコン−酸素間の極性共有結合が形成される。同様の測定を表面のシリコン原子上で行うと、シリコン−シリコン間に形成される共有結合エネルギーを見積もることができるという。

 研究グループによれば、これら2種類の結合エネルギーの関係は、ポーリングの式によって説明することができるという。ポーリングの式は原子間の電気陰性度差と結び付けられており、個々の原子の電気陰性度を見積もることが可能なことも明らかとなった。

 今回の研究では、ゲルマニウム(Ge)やスズ(Sn)、アルミニウム(Al)といった酸素以外の元素についても電気陰性度を測定した。「単一原子の状態で各元素の電気陰性度を評価したのは世界でも初めて」と主張する。

 同一元素であっても、周囲の化学環境が異なる時に、電気陰性度がどのように変化するかも開発した手法で検証した。そうしたところ、酸化後のシリコン原子は、未反応のシリコン原子に比べ電気陰性度がより大きくなることが分かった。


左は各元素の電気陰性度を示した周期表の一部。数値の上段はポーリングの値、下段(赤字)が今回の研究で測定した値。右は同一元素でも周囲の化学環境によって値が変わった事例。SiO2上のSi原子がより大きな電気陰性度を示した (クリックで拡大) 出典:東京大学

 今回の研究成果により、AFMを活用して個々の原子の電気陰性度を評価することが可能であることを示した。新たに開発した手法は、触媒研究に用いられる遷移金属のセラミックス表面の各原子や、表面に吸着した単一有機分子における官能基の化学活性度などの測定/評価に応用できる可能性もあるという。また、従来のAFNによる元素識別法では、主に第4族の元素に限定されていたが、今回の手法を用いるとより多くの種類の元素を識別できることが分かった。

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