0.05mmの組み込みずれも許さない、カシオ新型モジュールへの挑戦:G-SHOCKの新モデルに搭載(3/3 ページ)
カシオ計算機は、耐衝撃ウォッチ「G-SHOCK」の新モデル「GPW-2000」を発売する。標準電波とGPS電波に加え、スマートフォン経由で接続したタイムサーバからも最新の時刻を取得する仕組みを搭載した。その肝となる技術が、カシオがGPW-2000のために開発した新モジュール「Connected エンジン 3-way」だ。同モジュールの開発にまつわる話を聞くと、腕時計に対するカシオのこだわりが見えてくる。
0.05mmのずれも許されない、耐磁板の配置
GPW-2000では新たに耐磁板も搭載した。3種の通信機能に影響を及ぼさないよう耐磁板の配置を工夫することで、日常生活に求められる耐磁性能(JIS1種耐磁性能)を実現している。
実は、この耐磁板も開発チームを悩ませた。
Connected エンジン 3-wayは、極めて高密度に部品を実装したモジュールだ。「耐磁板は、外部からの磁場を吸収しても、モーターの磁場まで吸収してはいけない。部品同士が密着している中、いかに効率よく外部からの磁場を吸収できるように耐磁板を設置するかが、難しかった」と横尾氏は説明する。最も効率よく磁場を吸収するには、「たった0.05mmでも耐磁板がずれることは許されない」(横尾氏)。(直径が0.08〜0.1mmとされる)髪の毛1本分すら、ずれることが許されないのである。
そのため、設計やレイアウトもさることながら組み立てや検査も容易ではない。GPW-2000は、カシオのマザー工場である山形カシオで製造される。山形カシオでは、カシオが国外に所有する工場に比べて、よりハイエンドなモデルを製造している。その山形カシオからも「従来品よりも製造に膨大な時間がかかる」と、ちくりと言われたこともあったという。
横尾氏は、部品のレイアウトや製造を少しでも容易にするために、「モジュールのサイズをコンマ数ミリでもいいから大きくできないか」と提案したという。「それを断り続けました」と語るのは時計事業部 モジュール開発部 モジュール企画室の小島直氏だ。時計としてのデザインに関わってくるところなので、「やはりそこは、こだわりたかった」と言う。どれだけ開発に苦労するとしても、使い勝手やデザインを含めた“時計としての完成度”に対する意識は、チーム全員が一致していた。「同じモノを目指していたからこそ、Connected エンジン 3-wayを完成することができた」(小島氏)
見て楽しみ、ワンタッチで操作する
カシオは、Connected エンジン 3-wayを搭載したモデルを、GPW-2000の他、電波ソーラーウォッチのフラグシップ製品である「OCEANUS(オシアナス)」(型番:OCW-G2000)でも展開する。これら2モデルの発売に合わせて、連携するアプリケーションも提供する。
それぞれのアプリでは、通常の表示時間とワールドタイムの入れ替えや設定、地図上からのワールドタイム選択、アラーム、タイマーの設定などを気軽に行うことができる。
GPW-2000向けアプリでは、時計のボタンを押した時間、場所を記録する「フライトログ機能」で、オリジナルのフライトログを作ることができる。記録したデータを編集してグループ化することも可能で、取ったポイントログをFacebookやTwitterなどのSNSにも簡単に投稿が可能。移動履歴を航空コンセプトらしい演出を加えて、3Dマップ上で移動履歴を振り返られる。フライトログの形を取っているが、位置情報は細かく分類されているため、歩いた距離でも正確に記録することができる。
同じくConnectedエンジン 3-Wayを搭載するOCEANUS向けのアプリでは、時刻補正の実施状況、ソーラー発電状況、世界のタイムゾーンやサマータイム情報の更新状況などがひと目で分かるようになっている。
このように、複雑な機能を持ちながらも、情報を可視化し、ユーザーが簡単な操作で扱える腕時計とアプリを提供する。
時計事業に参入した当初から受け継がれるDNA
カシオは1974年、計算機開発技術を応用して、オートカレンダーを搭載した「カシオトロン」を発売することで時計市場への参入を果たした。カシオトロン開発当時から、「停止することなく自動的に正しい時刻、カレンダーを表示する」という「完全自動腕時計」を目指すことを開発思想としていた。その開発精神は、現在も絶えることなく受け継がれている。
Connected エンジン 3-wayはGPW-2000(価格:10万円/税別)への搭載を皮切りに、前述したOCANUS OCW-G2000の他、同社の他ブランドにも搭載していく予定だ。
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