テラヘルツレーザー照射で波長変換効率5割増し:超高速光電子デバイスの開発に道
テラヘルツレーザー光を酸化物セラミックス結晶に照射すると、室温で第二次高調波(SHG)強度が5割以上増大する――。この現象を東京工業大学と京都大学の共同研究グループが発見した。巨大データ高速処理に必要な超高速光電子デバイス開発への応用が期待できる。
最大電界強度0.8MV/cm時、SHG強度が5割以上増加
東京工業大学は2017年6月15日、二次の非線形感受率を持つ極性材料の酸化物セラミックス結晶(BiCoO3)に、波長サブミリの遠赤外光であるテラヘルツレーザー光を照射すると、第二次高調波発生の波長変換効率が5割以上増大するという現象を、京都大学との共同研究で発見したと発表した。
研究の対象となった酸化物セラミックス結晶は、高強度レーザー光の波長を変換できる極性材料だ。ビスマスとコバルトを含む酸素4面体の頂点方向が結晶内で同一の方向を向き、全体としてマクロな極性構造を持ち、極性構造に起因する二次の非線形感受率が存在する。そのため、第二次高調波発生(SHG)を容易に観測することができる。
SHGとは、入射光の周波数の2倍の光が発生する現象のこと。研究グループは今回、酸化物セラミックス結晶に対して、尖頭(せんとう)値が約1MV/cmの電界強度を持つテラヘルツ光パルスを照射。ポンプ‐プローブ分光法という測定手法を用い、酸化物セラミックス結晶から発生するSHG光強度がテラヘルツ光照射に伴い、どのように変化するかを測定した。
実験の結果、テラヘルツ光パルスの照射により、SHG強度が瞬時に増強することが観測できた。最大電界強度0.8MV/cmの時に増えたSHG強度は5割以上だった。研究チームによると、このようにSHG強度が急激に増したのは、テラヘルツ光が結晶の歪みを引き起こし、二次の非線形感受率を増大させたためだという。
研究チームは、SHG強度が変化する速度も調べた。すると、SHG強度はテラヘルツ波の波形に追随し、1ピコ秒(1兆分の1秒)以内に変化した後、元の状態に戻ることが分かった。このように巨大で高速の非線形光学応答の変化は、これまで全く見られなかったと述べている。
今回の研究により、テラヘルツレーザー光で極性材料の波長変換特性を大幅に向上できる可能性が明らかになった。テラヘルツ電磁波によって制御される超高速データ処理に向けた新たな超高速光電子デバイスの開発につながる可能性がある。また、強誘電材料が持つ他の有用な性質(アクチュエーターやキャパシターなど)の機能を、テラヘルツ光の照射により大幅に高められる可能性もある。
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