光波長変換でテラヘルツ波を高感度に検出:実験装置は全て室温動作
理化学研究所(理研)と東京工業大学(東工大)の共同研究チームは、光波長変換技術を応用してテラヘルツ波を高感度に検出することに成功した。実験装置は全て室温で動作するという。
従来の光波長変換による検出と比べ感度は100倍以上
理化学研究所(理研)と東京工業大学(東工大)の共同研究チームは2017年3月、光波長変換技術を用いて、テラヘルツ波を高感度に検出することに成功したと発表した。検出には室温で動作する小型テラヘルツ波検出装置を用いた。
この研究は、理研の光量子工学研究領域テラヘルツ光源研究チームである瀧田佑馬基礎科学特別研究員、縄田耕二基礎科学特別研究員及び南出泰亜チームリーダーと、東工大科学技術創成研究院の浅田雅洋教授、同大学工学院の鈴木左文准教授らが共同で行った。
電波と光波の中間周波数帯であるテラヘルツ波は、指紋スペクトルと呼ばれる物質固有の吸収ピークが存在する。こうした特性を活用して非破壊検査などの領域でその応用が注目されている。ところが、これまでは光源や計測装置を冷却する必要があり、実用レベルで課題となっていた。
こうした中で理研の研究チームは、室温環境においてテラヘルツ波を高感度で検出する方法を開発してきた。それは光波長変換技術を用いた手法である。テラヘルツ波を近赤外光に変換して、近赤外光検出器で高感度に計測することができる。
一方、東工大の研究チームは、小型の共鳴トンネルダイオード(RTD)を開発してきた。室温で連続発振するテラヘルツ波光源となるものである。冷却が不要で光波領域のLEDのように電源供給のみで動作するという。
共同研究チームは今回、RTDで発生させたテラヘルツ波を、光波長変換して検出する実験を行った。RTDが発するテラヘルツ波を、テラヘルツ波用レンズにより非線形光学結晶のニオブ酸リチウムに集光させた。そして波長1064.3nmのパルスレーザー光を励起光として、集めたテラヘルツ波を近赤外光に変換した。近赤外光は空間フィルターを用いて励起光と分離し、近赤外光のみを近赤外光検出器で計測した。
近赤外光検出器による計測の結果、RTDの発振周波数が0.58THzでは波長1066.6nm、同じく0.78THzでは1067.3nm、1.14THzでは1068.6nmの近赤外光をそれぞれ観測することに成功した。この時に用いた励起光とテラヘルツ波を波長変換した近赤外光の周波数の差が、テラヘルツ波周波数に相当するという。
また、入力するテラヘルツ波のパワーを減衰させて、検出能力の実験も行った。そうしたところ、周波数1.14THzにおいて最低約5nWでも検出することができたという。この感度は、従来の光波長変換による検出と比べて100倍を上回る高いものである。さらに、光波長変換技術を用いることで、観測した近赤外光の波長及び出力結果から、RTDの発振周波数と出力を測定することが可能なことを示した。
情報通信研究機構(NICT)と理研が公開しているテラヘルツ分光データベースと、今回開発した計測技術を組み合わせることで、多周波数テラヘルツ波のリアルタイム計測を実現することも可能になるとみている。
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