新MIPSコア、Mobileyeの「EyeQ5」に搭載へ:事業は売却される方針だが(2/2 ページ)
Imagination Technologies Groupが、64ビットのCPUコア「MIPS I6500-F」を発表した。同社は2017年5月に、MIPS事業を売却する方針と発表していて、今回の新製品はImaginationにとって重要な鍵を握るものとなりそうだ。
Mobileyeとの協業
Imaginationによれば、I6500-Fは、ASIL B(D)の要件を満たすという。“ASIL B(D)”とは、どういう意味なのか。Mace氏は、「I6500-FのIPがSoCに搭載され、製品として顧客に提供されるようになるころまでには、ASIL Dに準拠できるようになっているだろうと予測しているからだ」と説明する。
MIPSチームの機能安全に関する取り組みは、他社との連携なしに進められてきたわけではない。ImaginationとMobileyeは、Mobileyeが最初にADAS(先進運転支援システム)向けSoC「EyeQ4」を開発した当初から、安全性に関する協業関係を構築してきた。EyeQ4は、プロセッサコア「MIPS interAptiv」と、ソフトウェアのセルフコアテスト機能を備えたCPU「M5150」を搭載し、ASIL Bに準拠している。
MobileyeのビジョンSoCはこれまで、専用アーキテクチャを使用しているために閉鎖的過ぎるという点で、競合メーカーや顧客企業から批判を受けてきた。
しかし興味深いことに、ImaginationはMIPS I6500-Fを発表する際、「MIPS I6500-FをベースとしたMobileyeの次世代SoC EyeQ5は、オープンソフトウェアプラットフォームとなる予定である。そのため、顧客企業は独自のアルゴリズムを採用することが可能だ。ハードウェア仮想化などのMIPSアーキテクチャ要素によってサポート可能な性能を実現できる」と主張している。
Mobileyeでエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントを務めるElchanan Rushinek氏は、MIPS I6500-Fが発表された際に、報道向け発表資料の中で、「MIPS I6500-FがASIL B(D)に準拠しているという点は、EyeQ5の高い安全性を確保する上で、重要な鍵となる。I6500-Fは、CPUとビジョンアクセラレーターとの間で完全なキャッシュコヒーレンシを確保することにより、ヘテロジーニアスコンピューティングに向けた理想的なプラットフォームを実現できる。それだけでなく、スレッド間通信などの独自機能によって、リアルタイム性能も高められる。MIPSのマルチスレッドCPUは、EyeQの性能や効率、安全性の大幅な向上を実現していく上で、重要な役割を担っている」と述べている。
ルネサスとTIがライセンシーになる可能性も?
もしMIPS I6500-Fが、Mobileyeが近々発表を予定しているEyeQ5の成功実現への鍵を握っていると実証された場合、自動車市場の中ではどの企業が、このMIPSの時流に乗ろうとするだろうか。
Bonte氏は、「ルネサス エレクトロニクスとTexas Instruments(TI)が、ライセンシー(ライセンス使用者)に加わるのではないだろうか」と推測する。
一方のMcGregor氏は、懐疑的な見方をしているようだ。「自動車市場は非常に競争の激しい市場であるため、ほとんどの半導体メーカーが、NVIDIAの『Drive PX2』やNXP Semiconductorsの『Bluebox』のようなプラットフォームへと移行している状況にある」(同氏)
McGregor氏は、「プロセッサだけがシステムを作るのではない。アクセラレーターやAIフレームワーク、開発ツールの重要性が高まる中、MobileyeとIntelは既に、これらの大半を手に入れているが、他の企業にとっては、こうしたリソースなしにI6500-Fを活用することは、非常に難しいかもしれない」と説明する。
また同氏は、「I6500-Fや他のプロセッサアーキテクチャを採用する可能性が高いのは、OEMの他、プラットフォームレベルで半導体メーカーと競合関係にある車載システムメーカーなどではないだろうか」と付け加えた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- AppleがImaginationのGPU使用を停止、2年以内に
GPUコア「PowerVR」を手掛けるImagination Technologiesは、Appleから、今後15カ月〜2年以内に、技術利用を停止するとの通達を受けたことを明らかにした。Appleは将来的に、独自に開発したGPUを同社のモバイル機器に搭載するとみられている。 - 買収で進化したイマジネーションの戦略
イマジネーション・テクノロジーズは、単体のIPコア事業に加えて、複数のIPコアを組み合わせたIPプラットフォーム事業を強化する。また、独自のハードウェア仮想化技術に対応することで、複数の異種プロセッサを搭載したコンピュータシステムにおいて、高いセキュリティを担保する。 - TeslaとMobileyeの関係は終わったのか
Tesla Motorsの「Model S」で、自動運転中に死亡事故が発生した。同社にビジョンプロセッサを提供していたMobileyeはこれを受け、Teslaへのチップ供給は現行の「EyeQ3」で終了する予定だと発表した。MobileyeのCTOは、半導体メーカーと自動車メーカーの関係性は変わる必要があると述べている。 - IntelによるMobileye買収、アナリストの反応は
IntelがMobileyeを買収することで合意したと発表した。自動運転車向けのコンピュータビジョン技術において既に同分野をけん引する存在であるMobileyeが買収されるというこの発表は、業界を驚かせた。調査会社のアナリストなど、業界の専門家はこの動きをどう見ているのだろうか。 - 「ムーアの法則は終わった」、NVIDIAのCEOが言及
台湾・台北で開催された「COMPUTEX TAIPEI 2017」で、NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏は、「ムーアの法則は終わった。マイクロプロセッサはもはや、かつてのようなレベルでの微細化は不可能だ」と、ムーアの法則の限界について言及した。 - IBM、5nmナノシートで画期的成果を発表
IBMなどが積層シリコンナノシートをベースにした新しいトランジスタ(シリコンナノシートトランジスタ)アーキテクチャを開発した。5nmノードの実現に向けて、FinFETに代わる技術として注目される。