微細化の先導役がPCからモバイルに交代――先端プロセスを使いこなすスマホメーカー:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(17)(2/3 ページ)
10nm世代の微細プロセス採用プロセッサを載せたスマートフォンが出そろってきた。これら最新スマートフォンの内部を観察すると、各スマートフォンメーカーが10nmプロセッサを使いこなすための工夫が垣間見えてきた。
微細プロセスと熱
半導体は2つの方法で熱対策を行ってきた。1つは動作電圧を下げることだ。
半導体の熱の発生原因は、おおまかに言えば、動作電圧とチップの大きさ、動かす速度の3つになる。大きなものを動かすにはエネルギーが必要なので、より小さく回路を作ることで充放電の距離を最小化し、なるべく電圧を下げることでエネルギー量を小さくするという対策だ。こうした対策を最も効率的に実施できるのが、微細化技術を用いることである。しかし微細化は熱対策が効率的に実施できる半面、新たに発生する問題もある。1つは、今回はあまり言及しないが「リーク電流(漏れ電流)」の問題がある。もう1つは、微細化によって集積度が上がってしまうために、同時に動くトランジスタが近寄り過ぎて起こる「熱集中」の問題である。
この高密度化による熱集中に対する対策が、チップ周辺での熱を下げる工夫である。
PCのような体積の大きな筐体を持つ機器はファンを使った空冷装置(一部は水冷装置)を施して熱を逃がしている。だが、スマートフォンには空冷装置を入れるスペース(厚み)がない。そのため、放熱材をチップパッケージの上に塗布したり、熱を発するチップには比熱の異なる部材を貼ったりする。それでも熱暴走(ある温度を超えると半導体は誤動作する)が起こり得る。そこで、各メーカーはさらなる工夫を行っているわけだ。図2はSamsungがGalaxyシリーズでS6世代から使っているヒートパイプという熱を逃がす仕組みである。
ヒートパイプは内部が3層構造になった放熱ラインだ。ヒートパイプのほぼ真ん中に熱源になるプロセッサが配置され、プロセッサで発生した熱をヒートパイプがヒートインし、両端に熱を伝え、ヒートアウトするという。熱を放出する場所は、上下のスピーカーユニット辺りになる。スピーカーは音を外部に出すために、外部との口を持っているからだ。結果としてスマートフォン内部の熱を上下に逃がすことでプロセッサの温度を下げているわけだ。
電池も大きな発熱源である。電池で発生する熱を、内部のフレームに空洞を開けて、ディスプレイの裏面を通じて全体に分散させるなど、極めて手の込んだ熱対策がなされている、これが最新スマートフォンの内部の姿の1つである。
図3は、2017年6月時点で市販製品に活用される10nmチップである。これらはほぼ同じ機能を有するプロセッサだ。当然各社による差別化技術、手の込んだ仕掛けも組み込まれているが、ほぼ同じ性能のトランジスタを使い、おおむね似たチップ面積に収められ、ほぼ同じ周波数で動作する。その結果、各社は熱対策などの「使い方」面での工夫を行っている。
Samsungは上記のようにヒートパイプを用い、Appleはチップの組み合わせで熱集中を抑え、Qualcommは、パッケージで放熱を行っている(各社の熱対策の詳細はテカナリエにお問合せいただきたい)。
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