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微細化の先導役がPCからモバイルに交代――先端プロセスを使いこなすスマホメーカーこの10年で起こったこと、次の10年で起こること(17)(3/3 ページ)

10nm世代の微細プロセス採用プロセッサを載せたスマートフォンが出そろってきた。これら最新スマートフォンの内部を観察すると、各スマートフォンメーカーが10nmプロセッサを使いこなすための工夫が垣間見えてきた。

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ついにPC向けの先を行く存在に

 10nmチップ量産のトップを切ったのはSamsungであった。次いでTSMC(=Apple A10Xを生産)だ。微細化プロセスの常時トップを走ってきたIntelはまだ10nm世代の製品化に踏み切っていない。14/16nm世代ではPC向けプロセッサ「Core M」でモバイル向けプロセッサ製品よりも1年近く早く製品化に踏み切った。だが、2017年になって発表したPC向けプロセッサ「Core i9」は18コアもの巨大回路を搭載するにもかかわらず、最初のバージョンはSkylake世代のCPUを搭載する14nm製品になる模様だ。

 微細化プロセステクノロジーの量産化で、PC向けデバイスを差し置いてモバイル向けデバイスがトップを切ったのは、10nm世代が初めてである。PC向けよりも早く微細化を成し遂げた事例としては、2007年6月にパナソニックが据え置き家電向けプロセッサに世界初の45nmプロセスを適用したことがある。Intelが45nmプロセスの量産を開始できたのは同じ2007年の10月から。製造工場は、Intel Fab32(米国アリゾナ州)であった。その後、PCに成り代わりモバイルが新技術の牽引(けんいん)者になると言われて10年。

 ついにモバイルが真の意味で微細化、先端技術の牽引者になった! これこそが2017年の半導体業界である!!

 さらに2017年夏から冬にかけて台湾MediaTekの「Helio X30」、中国HiSiliconの「Kirin 970」など続々と10nmのモバイル用チップが世に出てくる。その後、NVIDIAの10nmチップも控えている!! (日本は蚊帳の外……)

さらにリードへ……三位一体の蓄積

 図4は、Samsung製Galaxy S8/S8+の内部のチップ機能チャートである。


図4:ほぼ完ぺきな機能がそろう「Galaxy S8」のチップセット (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 基本機能のほぼ全てをSamsungのチップセットで構成できている。通信、信号処理、画像処理などは電源ICやトランシーバーもセットになって最大効率を発揮する。こうしたチップセットを作れるメーカーは少ない。これらの先に手足となるセンサーやドライバをつなげばスマートフォン、さらには多くの新デバイス群(AR/VRやロボティクス)が完成する。チップそのもの、チップセット、チップの使い方(放熱対策など)、こうした三位一体が海外ではすさまじい速度で進んでいる。失敗やエラーも多々あるだろう。しかし問題、課題は常に、多大な努力や情熱で克服され、海外勢のノウハウ、経験として刻み込まれていく。三位一体の蓄積の差は次の世代、7nm世代や5nm世代ではより大きな差となって現れるではなかろうか。

 日本メーカー群は10nmでの経験、蓄積を上記面々に比べて持っていないからだ……。

「この10年で起こったこと、次の10年で起こること」連載バックナンバーは、こちら

筆者Profile

清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント

 ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。


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