力任せの人工知能 〜 パソコンの中に作る、私だけの「ワンダーランド」:Over the AI ―― AIの向こう側に(12)(1/9 ページ)
私はこれまで、人口問題や電力問題、人身事故などさまざまな社会問題を理解するためにシミュレーションを利用してきました。シミュレーションは、AI(人工知能)という概念を飛び越えて、「人間が創造した神」と呼べるかもしれません。今回は、シミュレーションに最適なAI道具の1つとして、「オブジェクト指向プログラミング」を解説します。これは、PCの中に“私だけのワンダーランド”を力任せに作る技術ともいえます。
今、ちまたをにぎわせているAI(人工知能)。しかしAIは、特に新しい話題ではなく、何十年も前から隆盛と衰退を繰り返してきたテーマなのです。にもかかわらず、その実態は曖昧なまま……。本連載では、AIの栄枯盛衰を見てきた著者が、AIについてたっぷりと検証していきます。果たして”AIの彼方(かなた)”には、中堅主任研究員が夢見るような”知能”があるのでしょうか――。⇒連載バックナンバー
「政策シミュレーションのプログラムソースコード」が欲しい
もうすぐ、東京都議会議員選挙が行われます(2017年7月2日)が、私は選挙の日が近づく度に憂鬱になります。どの候補者に、または、どの政党に投票すれば良いのか、分からないからです。
もっと端的に言えば、どの候補者も、どの政党も自分の意見を「数字」で語らないので、判断できないのです。
例えば、日本で最も有名なある日本の野党の政党は、財源ポリシーとして、以下を挙げています。
- 所得税の最高税率を元に戻す
- 証券優遇税制を20%に戻し、富裕層は30%以上に引き上げる
- 相続税、贈与税の最高税率を元に戻す
- 低い大企業への優遇税制を段階的に元に戻す
- 大企業の過剰な利益留保を、雇用と中小企業など社会に還元し、家計・内需主導の経済成長路線に変更する
この財源ポリシーは「面白い」と思います。例えば、新しい産業の創成とか、ベンチャーの保護とか、ほとんどの内閣が取り組んできて、ほぼ100%失敗に終わっている「新戦略」などという、眉唾(まゆつば)的なものが一切ない点が良いです。むしろ、このような古臭い感じがする財源対策というのは、非常に新鮮に感じます。
その一方、この財源ポリシーの肝は、「企業が溜め込んだ金を、家計に再分配する」という点にあると思うのですが、「企業が溜め込んでいる金」が「家計に再配分」できる程あるのか、という根本的な疑問がわきます。
また、「企業が溜め込んでいる金」の中には、新規ビジネスや、研究開発投資に回されるものも含まれているので、その金を削ることは、将来のわが国の経済発展の目を閉ざす可能性もあります。
しかし、この「発展的成長に、あえて背を向ける財源ポリシー」は、現在の日本の経済状況を鑑みた場合、現実性のあるシナリオとも思えます。私は、この政策に乗ってみたいとさえ思うことがあります。
ところが、この政党は、この政策の根拠となるべき「数字」を提示していないのです。
この政党以外の大きな政党(与党、野党第一党)では、「数字」をマニフェストで示しているケースもありますが、その計算プロセスは、開示されていません。
そして、「根拠なき数値」だけで、その候補者や政党を信じるほど、私は、お人好しではありません。
そこで、提案です。これは日本の技術者人口1000万人という広大な票田を独占し得る、非常に魅力的な提案となるはずです。
『政策シミュレーションのプログラムソースコード(エクセルシートでも可)を、インターネットで開示する』
というのは、どうでしょう。
この効果は絶大です。なにしろ、そのソースコードを読むだけで、税率、財源の根拠、人口比率、株価変動、など、各政党が何を考えているか、全て分かるのです。マニフェストなんぞという、ウソくさいものを「信じる」必要もありません*)。各政党が、どのような未来を想定しているのかも、ソースコードから一発で解釈可能です。そして、あまりに都合の未来予想図は、公に批判されることになります。
*)コンピュータプログラムであれば、1+1=5などいうことは(悪意でコードを改竄でもしない限り)発生しないからです。
いずれにしても、私が欲しいのは、「目に見える財源数値の根拠」であって、「カリスマのある政治家」でも「理念や理想を語る政治家」でもありません。極端なことを言うなら、私は、私と私の家族の安心と安全を担保してくれるのであれば、別段、人間が政治をしなくても良いと思っています ―― それこそ「人工知能」なるものに、やってもらっても構いません(やれるものなら)。
とにかく、私(と技術者人口1000万人)に客観的な数字とそのプロセスを提示する、各政党の日本国財源シミュレーションプログラムのソースコードと、その計算結果があれば、私には十分なのです。
さて、私のこの提案は、「絵に描いたモチ」のように全く現実性のないものでしょうか?
文部科学省は、2020年度からの学習指導要領において、小学校でのプログラミング教育を必修化とすることを決定しました。
私は、現時点において、この学習指導によって、多くの子どもが『プログラミングなんて、一生やるものか』などと思ってしまう、なんてことにはならないだろうか ―― と、心配しています*)。
*)心配しているだけで、プログラミング教育に反対している訳ではありません(参考ブログ)
その一方で、この政策によって、国民の大半が奇跡的に「新聞を読むように、プログラムコードを読めるようになる」ことになれば、私の主張する「政策シミュレーションのプログラムソースコードの開示」は、実現されるかもしれません。
もっとも、国民の大半が「日本語の新聞を読むように、英語の新聞を読むようになる」ことすら実現されていないので、正直、あまり期待はしていないのですが。
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