力任せの人工知能 〜 パソコンの中に作る、私だけの「ワンダーランド」:Over the AI ―― AIの向こう側に(12)(2/9 ページ)
私はこれまで、人口問題や電力問題、人身事故などさまざまな社会問題を理解するためにシミュレーションを利用してきました。シミュレーションは、AI(人工知能)という概念を飛び越えて、「人間が創造した神」と呼べるかもしれません。今回は、シミュレーションに最適なAI道具の1つとして、「オブジェクト指向プログラミング」を解説します。これは、PCの中に“私だけのワンダーランド”を力任せに作る技術ともいえます。
「デジタルアクティブ」の割合を、人口予測シミュレータで予測する
話は変わりますが、私は今年度から、町内会の役員をやることになりました。
「町内会役員」「PTA役員」は、わが国が誇る「2大忌避ボランティア」といっても過言ではありません。「忌避」する「ボランティア」とは、矛盾する表現ですが、私は、地域コミュニティーで生きていくためにもれなく付いてくる『懲役(刑)』みたいなものと、割り切っています。
町内会の役員は、当然ですが(私も含めて)高齢の方で占められていて、そして、当然のことながら、極めて「アナログなシステム」によって、さまざまなものが運用されています。例えば、町内会の会館予約受けつけは、日曜日の一時間のみ(Web予約なし)で、常設パソコンも、Wi-Fiもありません。
さすがに、会議の書類などはワープロでの印刷物が配布されますが、パソコン用の大型ディスプレイやプロジェクタなどは一切ありません。
これは、現時点における、わが国の町内会の役員のありのままの姿だと思いますが、今回、私は、この姿がどのように変化していくのかを知りたいと思い、シミュレーションをしてみました(理由は後述します)。
日本でインターネットが、電気や水道やガスと同様の、社会インフラになったと言われているのは1990年ごろで、この年以降に生まれた世代を「デジタルネイティブ」と呼びます。彼らは、インターネットが存在しなかった時代を知らないからです。
しかし、「デジタルネイティブ」だけが、デジタルサービスを使えるかというと、そういう訳でもありません。私はもちろん、嫁さんも当然のようにスマホでLINEを使っていますし、義母だってメールを使っています。
そこで今回、私は、"デジタルアクティブ"という新しい概念を導入して、「デジタルサービス」の世代格差を数値で比較してみました。
この定義に基づいて、「デジタルネイティブ」と「デジタルアクティブ」の、今後の変化を、江端の十八番の「人口予測シミュレータ」(参考記事、プログラムはこちら)につっこんでみました。
35年後には、市役所や郵便局、JRの「みどりの窓口」などは全て撤廃され、完全無人化のコンビニエンスストアやスーパーマーケットが、当たり前の世界になっているかもしれません。
しかし、問題は「町内会の役員」……ではなく「高齢者」のデジタルデバイド(デジタルサービスを享受できないこと)が今後どうなっていくか、ということです。そこで、65歳以上の人の"デジタルアクティブ"率が、どのように変化していくかもシミュレーションしてみました。
現時点(2017年)では、65歳以上の"デジタルアクティブ"は、1000人に8人という状態で、全くお話になりません。2020年の東京オリンピックの時でさえも100人に3人程度です。とてもじゃありませんが、こんな状態では、「町内会」をデジタルシステムに切り替えることはできません。
ところが、これからの20年間はすごいです。高齢者の半数以上が一気に、"デジタルアクティブ"になっていきます。こうなってくると、現在の町内会の「アナログシステム」が、逆に町内会を衰退させていく可能性が出てきます。最悪の場合、町内会は消滅するかもしれません。
町内会なんぞ消滅しても構わん。むしろ、消滅して欲しい ―― と考えている人も多いかと思います。しかし今回、町内会の委員になって分かったことがあります。行政(政府だけでなく、市町村レベルで)は、老人介護の問題から手を引きたがっていて、これらの問題を、町内会レベルに押し付けようと画策しているのが見えてきたのです。
今後、
地域コミュニティーは「孤独死『発生』率」どころか「孤独死『発見』率」という単位で計測される時代がくる』
と、私は確信しています。なにしろ、私には老人介護問題についての明るい未来が全く見えないのです(関連記事:「老人ホーム 4.0」がやって来る)。
町内会は、良かれ悪かれ、このような時代の到来に対して、解決方法とならないまでも、一種の緩衝材(バッファ)の役割が期待されるようになってくるはずです。ならば、そのバッファを今のうちに、先行的に整備しておくことは、十分に意義がありそうです。
つまるところ、私には「町内会の為に町内会の仕事をする」などという殊勝な気持ちはないのです。
私は、「私の老後、私の被災に備えた、私の安全・安心のためだけに最大限の威力を発揮する生活防衛のデジタルサービスインフラを、私個人のために作り直す」という、完全な私益と独善に基づくモチベーションで、町内会の役員の仕事を引き受けたのです。
ともあれ、このシミュレーション結果から、未来に向けて「介護老人」の負担の増加という暗い要因はあるものの、高齢者の「デジタルアクティブ化」が進んでいくことは確実と言えそうです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.