テスラの死亡事故、ドライバーに何度も警告:米機関が調査結果を公表(前編)(2/3 ページ)
2016年、自動運転モードで走行していたTesla Motors(テスラ)「Model S」が大型トレーラーと衝突し、Model Sのドライバーが死亡するという事故が発生した。“自動運転中の初の死亡事故”ということで大きな話題を呼んだこの事故について、米国家運輸安全委員会は、500ページに上る調査結果を公表した。
EDRは搭載せず
米国の市場調査会社であるThe Linley Groupでシニアアナリストを務めるMike Demler氏は、今回の報告書を読み終えた後、EE Timesのインタビューに応じ、「Teslaの制御およびデータ記録システムに関する一部の記述が、非常に興味深かった。特に、『SDカードは、自動車が製品寿命に至るまでの全ての保存データを完全に記録できるだけの、十分な容量を備えている』とする記述が、実に興味深い。自動車の製品寿命が尽きるまでに生成される全データ量を、どのように判断したのだろうか」と疑問を提示している。
残念ながらNTSBの報告書には、この質問の答えは記されていない。
しかし、1つだけ明らかなのは、NTSBがこのリムーバブルSDカードを、イベントデータレコーダー(EDR:Event Data Recorder)の代替であると認識しているという点だ。NTSBとしては、現行仕様においてEDRを不要(完全に任意)としているため、Teslaの対応は十分だったと結論付けたようだ。
Vision Systems Intelligence(VSI)のディレクタ兼パートナーであるDanny Kim氏は、EE Timesの取材に応じ、「事故を起こしたModel Sは、規制による義務付けがないためにEDRを搭載していなかった。たとえEDRを搭載していたとしても、規制によって義務付けられている既存のEDRは、かなり旧式のため、自動運転車の性能に対応することはできないだろう」と述べている。
しかしKim氏は、「米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が2016年秋に提案していたように、遅かれ早かれ、EDR搭載の義務化をはじめとする新しい規則が策定されることになるだろう」と述べる。
また同氏は、「Teslaが、NHTSAから送付された広範にわたる質問リストに対し、既存のEDRで対応可能な範囲を超える情報を提供することができたという点については、評価することができる。最も注目すべきは、Teslaのオートパイロット機能搭載自動車に関するあらゆる詳細情報として、車体番号や型式、年式の他、自動ハンドルONの状態での全走行距離や、自動ハンドルを手で握るよう警告した回数の記録などが明らかにされたという点だ」と述べている。
警告音は6回、発せられていた
もちろん現時点で、2016年に発生した死亡事故について最も論争を呼ぶ問題となっているのが、ドライバーが自動運転モードでの走行中に、ハンドルを手で握っていたのかどうかという点だ。
NTSBは今回、復旧データを調査した結果、ドライバーがハンドルを握る必要があった37分間の走行中に、わずか25秒しか握っていなかったと判断した。
報告書によると、ドライバーは走行中のほぼ全ての時間、オートパイロット機能を作動させていたという。ドライバーに対し、ハンドルを握っている状態が検出できないとする視覚的な警告が、7回にわたり発せられたという。
また、「ハンドルを握ってください」という警告メッセージに合わせて、警告音が6回鳴っている。
VSIの設立者であるPhil Magney氏は、EE Timesに対し、「Teslaのオートパイロット機能は、ドライバーがハンドルを握っている状況を継続的に監視する。オートパイロットモードがアクティブの時に、ドライバーの手がハンドルに置かれていない場合、Teslaはチャイムとフラッシュライトを発し、ドライバーの注意を喚起しようとする。そのような警告が繰り返された後でも、ドライバーがハンドルを握るのを拒否した場合、システムは運転サイクルの継続を自ら停止する」と語った。
Magney氏は、「問題は、Teslaのドライバーが手をハンドルの上に何気なく置くだけで、システムを簡単に“欺く”ことができる点ある」と指摘した。
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