京大ら、アンモニア燃料電池で1kW発電に成功:アンモニア燃料を直接供給
京都大学らの研究グループは、アンモニアを直接燃料とした固体酸化物形燃料電池(SOFC)で、1kWの発電に成功した。アンモニア燃料電池の発電出力としては世界最大級となる。
エネルギーキャリアや燃料として注目を集めるアンモニア
京都大学らの研究グループは2017年7月、アンモニア(NH3)を直接燃料とした固体酸化物形燃料電池(SOFC)で、1kWの発電に成功したと発表した。NH3燃料電池の発電出力としては世界最大規模と主張する。
今回の研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」の委託研究として実施。京都大学をはじめノリタケカンパニーリミテドやIHI、日本触媒、豊田自動織機、三井化学および、トクヤマが共同で行った。
NH3は、エネルギーキャリアの候補として注目されている。燃料としても利用が期待されている。炭化水素を利用した燃料電池に比べて、二酸化炭素排出量の削減効果が大きいからだ。
研究グループは今回、燃料となるNH3を直接SOFCスタックに供給して発電を行った。発電の原理はこうだ。電解質であるジルコニアの片面に取り付けた燃料極に、NH3ガスを直接供給した。反対側の空気面には空気を供給することで、両極間で電力を発生させる仕組みである。
今回は、この燃料電池単セルを30枚積層した。温度分布を最小にして、NH3ガスが各セルへ均等に流れるように工夫したところ、純水素と同等レベルの発電特性になることを確認した。1kW級の出力規模でありながら、燃料電池の直流発電効率は50%を上回る数値となった。評価用の試作機では1000時間の連続運転にも成功している。
なお、これとは別の燃料供給方式も開発した。NH3と空気の混合ガスをハニカム構造の触媒に供給して、部分燃焼する触媒およびオートサーマル反応器(自己熱反応器)である。この反応器を用いると、500℃の出口ガス温度を達成するのに、130秒という高速起動が可能になることが分かった。反応器で生成した水素を含む混合ガスを、SOFCスタックに供給したところ、同じく1kW級の発電に成功した。研究グループでは、「NH3を燃料とするSOFCの、外部加熱によらない高速起動の可能性を示す技術」とみている。
研究グループは今後、小型の実証機を作製して、1kW級NH3燃料電池の運転を行う予定である。
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