加熱方向で熱電変換効率が変化、東北大学が発見:鉄と窒素からなる磁性材料
東北大学金属材料研究所の水口将輝准教授らは、鉄と窒素からなる磁性材料が、熱を加える方向によって熱電変換効率が変化することを発見した。
異常ネルンスト効果を発電に応用、効率改善へ
東北大学金属材料研究所の水口将輝准教授と高梨弘毅教授は2017年7月、鉄と窒素からなる磁性材料が、熱を加える方向により熱電変換効率が変化することを発見したと発表した。鉄と窒素の組み合わせ以外でも、同様の特性を持つ材料を作製することができるという。
今回の研究は、水口氏と高梨氏らが、福島工業高等専門学校の磯上慎二准教授(現在は物質・材料研究機構主任研究員)らのグループと共同で行った。研究では、酸化マグネシウム(MgO)基板上に、マグネトロンスパッタ法で「γ’型Fe4N」磁性体結晶を単結晶薄膜として作製した。その上で、異常ネルンスト効果を温室で調べた。
具体的には、材料の薄膜面内方向に熱の勾配をつけ、発生するネルンスト電圧を測定した。この結果から、発生する電圧は、熱を加える方向によって大きく変化し、単一材料として強い異常ネルンスト効果の異方性を示す材料であることが分かった。
異常ネルンスト効果自体は、古くから知られた現象だという。理想的な熱電変換技術だが、これまで発電への応用などにはあまり活用されてこなかった。今回は、異常ネルンスト効果に強い異方性を示す材料を用いて素子設計を行い、極めて高い熱電発電効率を実現できる可能性を示した。
今回の研究成果は、大きく2つの意義があるという。「新材料の開発」と「特異な現象の発見」である。例えば、マイクロメートルサイズの素子設計において、極めて高効率な熱電変換素子の開発や、出力可変の熱電素子を開発できる可能性を示した。また、鉄と窒素からなる結晶は、未知の機能性材料創製の可能性が期待できるとみている。
一方、学術的な成果も興味深いと研究グループはいう。新たに開発した材料は電気抵抗(あるいはホール抵抗)には異方性がほとんどないが、熱磁気効果を持つ磁性体だけに異方性が現れる。この現象を確認するため、同じような結晶構造をもつ「A2型Fe-Al」単結晶薄膜を用いて同様の実験を行った。そうしたところ、A2型Fe-Al単結晶薄膜では異方性を確認できなかったという。研究グループはその要因として、鉄原子および、窒素原子に特有の強い軌道混成から生じる電子相関が関係しているとみている。
研究グループは今後、熱電特性の異方性をさらに大きくするための材料開発、磁性体のナノ構造を制御する研究などに取り組む。また、今回の研究成果を用いた熱電素子を試作し、熱電効率が向上することを実証していく予定だ。
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