次期iPhone、NFCチップで“番狂わせ”はあるのか:STMがNXPに取って代わる?(2/3 ページ)
もう間もなく、Appleから新型「iPhone」が発表される。搭載される部品で、サプライヤーが交代するという“番狂わせ”はあるのか。NFCチップのサプライヤーについて検証してみよう。
NFCの市場機会は、iPhoneによって確実に広がる
スマートフォン向けNFCチップは、どの半導体メーカーにも大きなチャンスを提供する。しかし、スマートフォンが、さまざまな種類のNFCタグのリーダーとして機能するようになれば、NFCおよびRFIDやSEチップ向けに、幅広い種類の用途を提示することになる。
STMは、「NFCチップは、銀行取引や身分証明などだけでなく、玩具用のタグとして機能したり、さまざまな消費財向けにタッピング機能を追加したりすることができる他、通信のペアリングや、IoT(モノのインターネット)デバイス向けのセキュアプロビジョニングなども実現することが可能だ」としている。
米国の市場調査会社であるABI Researchで主席アナリストを務めるPhil Sealy氏は、「NFCに関してはこれまで、支払い以外の大規模な商用ユースケースが中途半端な状態にあった。しかし、その要因の1つとして、かつてAndroidデバイスだけが市場ターゲットに定められていたために、市場機会が限られてしまったという点が挙げられる」と指摘する。
Sealy氏は、「Appleは以前に、NFCタグ市場の勢いが低迷していたために、NFC機能を終了することを決断しており、これは非難に値するといえる。サービスプロバイダーやブランド側は、NFC対応Androidデバイスを使用している限られた数のユーザーにしかアクセスできないような技術に、投資したいとは思わないだろう」と述べている。しかし今や、状況が変わる可能性がある。
Sealy氏は、NFCタグの用途として、社会的なつながりや、ターゲットマーケティング、ロイヤルティー、スマートポスター、偽造防止、ブランド保護などを挙げている。同氏の予測によると、NFCは今後、ブランドにとって、既存の小売環境の外側にいる消費者との接触やつながりを確保するための“次世代プラットフォーム”になる見込みだという。
一方、イギリスの市場調査会社であるSAR Insight & Consultingで主席アナリスト兼ディレクターを務めるPeter Cooney氏は、こうした見方に懐疑的で、「Androidでも同じような用途があるが、今のところ非常に限定的だ」と述べる。
市場調査会社であるP.A.ID Strategiesの創設者であり主任アナリストを務めるJohn Devlin氏は、もっと楽観的な見方をしているようだ。
同氏は、より多くの情報とマーケティング資料を提供するスマートポスターや、方向指示が可能な地図、ギャラリーや博物館内の展示物などを例として挙げながら、「私の見解としては、QRコードで提供される多くのアプリケーションよりも、もっとスムーズなユーザーエクスペリエンスと多くのデジタルソリューションを提供できるようになるとみている。ただしNFCタグは、画面上で安価に作成したり印刷したりすることができないという点で、QRコードとは異なる」と指摘する。
STMはNFCおよびRFID市場において、過去10年以上にわたりプレーヤー企業として参加してきたため、決して新参者ではない。
STMは、同社のセキュアなマイコン、NFC、RFIDソリューションを補完すべく、NFCチップに搭載する“秘密兵器”としてIP(Intellectual Property)や技術、製品、事業部門などを、数年間かけてひそかに確保してきた。
例えば同社は、ベルギーMelexisからアナログフロントエンドIPのライセンス供与を受けている他、ams(Austria Mikro Systeme)と数年間にわたって密接に協業することにより、2016年8月に、amsのNFCおよびRFリーダー事業を買収した。
Florentin氏は、「その結果、STMは2017年初めに、ブースター技術を搭載した最新型NFCコントローラーチップを発表するに至った。STMのNFCコントローラーチップは今や、対応距離や信頼性の面で競合チップを超える、最高クラスのFR性能を実現するまでになっている」と述べる。
さらにSTMは、「当社の新世代NFCチップは、長距離でも高速かつスムーズなトランザクションが可能な、アクティブな負荷変調を実現する。このため、モバイル機器やウェアラブル機器、IoT機器におけるユーザーエクスペリエンスをさらに高めることが可能だ」と主張している。
Florentin氏は、同社チップの性能に関するベンチマークデータを提示するよう求められると、難色を示し、「顧客企業からは、当社の新型NFCチップが予想を上回る強力な性能を実現しているとの評価を得ている」と述べるにとどめた。
STMのエグゼクティブバイスプレジデントであり、マイクロコントローラー/デジタルICグループ担当ゼネラルマネジャーを兼任するClaude Dardanne氏は、「当社がNFC技術の向上を実現できたのは、買収によって取得したIPや技術だけでなく、amsの事業買収に伴って移籍してきた技術チームによるところが大きい」と指摘する。
米国の市場調査会社であるTirias Researchで主席アナリストを務めるJim McGregor氏は、「NFCに関する重要なポイントの1つとして、出力を高めることによって対応範囲を拡大できるという点が挙げられる。しかしそれは、モバイルデバイスの電池寿命にとっては良いことではないため、最終的には電力効率に行き着くことになる」と述べる。
それはまさに、STMがこれまでに取り組んできたことだ。同社は、「NFCチップの信頼性を高めることが、低消費電力化につながる。伝送に失敗して何度も伝送を繰り返すと、結局、より多くの電力を消費してしまうだろう」と説明する。
STMは、「当社の新世代NFCコントローラーチップは、電力管理機能と電池電圧監視機能を搭載しているため、スマートフォンなどのホストシステムのランタイムに及ぶ影響を最小限に抑えることができる。さらに、受信感度が極めて高いため、小型アンテナを使用したり、オプションとして、水晶振動子の代わりに外部からのクロックソースを使用できる他、半導体チップの出力が高いため、DC-DCコンバーターの使用をオプションにすることも可能だ」と主張する。
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