東北大学ら、有機半導体デバイス用電極を開発:電子/正孔両方の注入が可能に
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)/同大学院理学研究科のタンガベル カナガセカラン助手らは、従来の性能を超える有機半導体デバイス用電極を開発した。電極材料によらず、電子/正孔両方の注入が低抵抗で行えるという。
金属/有機多結晶半導体/テトラテトラコンタンの三層構造
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)/同大学院理学研究科のタンガベル カナガセカラン助手と下谷秀和准教授および、谷垣勝己教授は2017年10月16日、東京工業大学物質理工学院の清水亮太特任講師(現在はJSTさきがけ専任研究員)や一杉太郎教授と共同で、従来の性能を超える有機半導体デバイス用電極を開発したと発表した。
有機半導体デバイスは、柔軟性や軽量、プロセスの容易性といった特長がある半面、実用化に向けては、電子の電極からの注入効率が極めて悪い、などの課題があった。このため半導体素子の多くは現在、シリコンなど無機半導体を用いて作製されている。
研究グループは今回、有機半導体デバイス向けに金属/有機多結晶半導体/テトラテトラコンタンという三層構造の電極を新たに設計した。新構造の電極は、テトラテトラコンタン薄膜の効果によって、結晶性の低い多結晶半導体薄膜が形成される。このバンドギャップ内に生じる電子準位が重要な役割を果たすという。
具体的には、金属と多結晶半導体の接合界面に形成されるバンドギャップ内準位のために、金属−半導体接合が従来のショットキー極限から離れてバーディーン極限に近づく。同時に、多結晶半導体構造の乱れによるバンドギャップ内準位を介して、小さい活性化エネルギーで半導体に正孔と電子が低抵抗で注入される。これは電極に用いる金属の種類には依存しないという。
研究グループは、有機半導体単結晶を用いたFETに、開発した電極構造を応用して検証した。この結果、新開発の電極は、従来の金電極からの正孔注入やカルシウム電極からの電子注入に比べて、大きな電流が流れることが分かった。しかも、電子と正孔の注入の向きを入れ替えても、同じように動作した。従来の電極だと、電子と正孔の注入の向きを入れ替えるとトランジスタとして動作しないという。
研究グループは、開発した電極を用いて電界発光素子を作製した。カルシウムなど不安定な材料を用いないため、空気中でも動作が安定しているという。
今回の研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」オンライン版で2017年10月17日に公開された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 透明で曲がる太陽電池、東北大が開発
自動車のフロントガラスやビルの窓に設置できる太陽電池。東北大学の研究グループは、光透過率が90%を超える透明な二次元シート材料を用いた太陽電池を開発した。 - 東北大、シリセンをフラットな構成単位に構築
東北大学の高橋まさえ准教授は、ジグザグ構造のケイ素2次元シート「シリセン」をフラットにできる構成単位の構築に成功した。 - 東北大学、量子ドットの発光強度を自在に制御
東北大学の蟹江澄志准教授らは、硫化カドニウム(CdS)量子ドットとデンドロンからなる「有機無機ハイブリッドデンドリマー」を開発した。このデンドロン修飾CdS量子ドットは、非対称性の高い液晶性立方晶構造を形成している。量子ドットの発光強度を自在に制御できることも分かった。 - 東北大、シリコンベースのUVセンサーを開発
東北大学は、セイコーインスツルの子会社と共同で、シリコンを使ったUV(紫外線)センサー用フォトダイオードの量産化技術を開発した。2個のフォトダイオードを組み合わせることで、日焼けやシミなどの原因となるUVをスマートフォンなどで簡便に計測することが可能となる。 - 加熱方向で熱電変換効率が変化、東北大学が発見
東北大学金属材料研究所の水口将輝准教授らは、鉄と窒素からなる磁性材料が、熱を加える方向によって熱電変換効率が変化することを発見した。 - 東北大、スピネル型酸化物材料の原子観察に成功
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の岡田佳憲助教らによる研究グループは、スピネル型酸化物材料の原子配列と電子状態を解明することに成功した。