東北大、シリセンをフラットな構成単位に構築:グラフェンを超える2次元材料
東北大学の高橋まさえ准教授は、ジグザグ構造のケイ素2次元シート「シリセン」をフラットにできる構成単位の構築に成功した。
ポイントとなった置換基「BeH」の働き
東北大学大学院農学研究科の高橋まさえ准教授は2017年9月、ジグザグ構造のケイ素2次元シート「シリセン」をフラットにできる構成単位の構築に成功したと発表した。グラフェンを超える物性の2次元材料を実現できる可能性が高まった。
シリセンは、構成単位である六員環ヘキサシラベンゼンが椅子型をしている。このため、不安定なジグザグ構造をとる。これをフラットな構造にすることができれば、グラフェンのように安定したシートを実現することができるという。
高橋氏は2005年に、電荷を注入することで六員環ケイ素クラスター(Si62-)がフラットになることや、このSi62-は六員環炭素クラスター(C6)と同じ二重芳香族性を持つこと、を見出した。この2年後に別の研究グループは、水素の代わりにリチウムを用いると、六員環ケイ素(Si6Li6)がフラットになることを発表した。しかし、ベンゼンとは異なる構造となり、環を2つつなぐとジグザグ鎖になることが分かった。
高橋氏は今回、「環の末端に置換基をつける」「sp混成軌道を有する置換基を選ぶ」「末端につける置換基はできるだけ軽くする」という、3つの方針に基づいて密度汎関数理論計算を行い、シリセンをフラットにできる構成単位の構築に成功した。
具体的には、sp混成軌道を有しつつ、電子供与基として機能するBeHを置換基に選んだ。単環のベンゼンや2環のナフタレン、3環のアントラセン、4環のピレンおよび、7環のコロネンと、5種の分子のケイ素等価体に置換基BeHをつけ、極めて高い計算レベルで構造を最適化した。こうして得られた構造は、エネルギーポテンシャル曲面上で極小点にあることを確認したという。
5種の分子は全てフラットな構造となり、電荷分布や分子軌道は炭素で作られるベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、コロネンと全く同じとなった。つまり、電荷は置換基がついている環の末端が負で、環の中心は中性、環に結合した原子は正である。最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)は、全てパイ軌道となった。
今回の研究成果により、シリセンの構成単位の構築において、BeHがグラフェンの構成単位における水素と同じ働きをすることが明らかとなった。フラットなシリセンを実現することができれば、シリコンテクノロジーを駆使して、グラフェンを超える物性を有する2次元材料を創出することが可能になるとみられている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 加熱方向で熱電変換効率が変化、東北大学が発見
東北大学金属材料研究所の水口将輝准教授らは、鉄と窒素からなる磁性材料が、熱を加える方向によって熱電変換効率が変化することを発見した。 - 東北大学、量子ドットの発光強度を自在に制御
東北大学の蟹江澄志准教授らは、硫化カドニウム(CdS)量子ドットとデンドロンからなる「有機無機ハイブリッドデンドリマー」を開発した。このデンドロン修飾CdS量子ドットは、非対称性の高い液晶性立方晶構造を形成している。量子ドットの発光強度を自在に制御できることも分かった。 - 東北大ら、原子核スピンの状態を顕微鏡で観察
東北大学の遊佐剛准教授らの研究グループは、原子核スピンの状態を顕微鏡で観察することに成功した。分数量子ホール液体と核スピンの相互作用を解明するための重要な成果となる。 - 東北大、シリコンベースのUVセンサーを開発
東北大学は、セイコーインスツルの子会社と共同で、シリコンを使ったUV(紫外線)センサー用フォトダイオードの量産化技術を開発した。2個のフォトダイオードを組み合わせることで、日焼けやシミなどの原因となるUVをスマートフォンなどで簡便に計測することが可能となる。 - 東北大、直径5nmの量子ドットを低損傷で作製
東北大学の寒川誠二教授らは、独自のバイオテンプレート技術と中性粒子ビーム加工技術を組み合わせることで、損傷が極めて小さい直径5nmの3次元窒化インジウムガリウム/窒化ガリウム(InGaN/GaN)量子ドット(量子ナノディスク構造)を作製することに成功した。 - 東北大、イオン制御型電磁石の開発に成功
東北大学の谷口耕治准教授らは、リチウムイオン電池の充放電特性を利用したイオン制御型電磁石の開発に成功した。イオンの出入りを制御することで磁性状態を切り替えることが可能となる。