誰も知らない「生産性向上」の正体 〜“人間抜き”でも経済は成長?:世界を「数字」で回してみよう(44) 働き方改革(3)(6/10 ページ)
「働き方改革」に関連する言葉で、最もよく聞かれる、もしくは最も声高に叫ばれているものが「生産性の向上」ではないでしょうか。他国と比較し、「生産性」の低さを嘆かれる日本――。ですが、本当のところ、「生産性」とは一体何なのでしょうか。
「サービス業」の付加価値っていくらなの?
で、これらの、成長率を支える3つの要因が、今現在どうなっているかについて、考察してみました。
現時点においてはっきりしていることは、"人口"に関しては、もうダメダメということです(毎度の引用ですが、シミュレーション結果はこちらを、また、若者たちにとっての未婚・少子化が、「最適戦略」となっているという論証は、こちらをご参照ください。
生産性については、冒頭で説明した通り、「生産性とは何か」ということを、政府ですら定義できておらず、民間企業は勝手な解釈を持ち込んで、独自の施策を(本気かフリかは不明ですが)やっているという事実があるだけです。
ただ、「生産性」について、政府も企業も、その定義もアプローチも示せていないのは、ある意味「仕方がない」ともいえるのです。
製品の製造や販売に関する小売業についても、「生産性」を定義することは難しいのですが、これがサービス業となると、もう絶望的に困難なのです。例えば、以下のサービス業を考えてみましょう。
サービス名称 | 付加価値 |
---|---|
美容院 | 来店時よりも、美しくなる |
小売業 | 他店よりも安い。欲しいものが一発で手に入る |
医療業 | 来店時よりも、健康になる |
飲食業 | 来店時よりも、食欲と味覚に対する幸福感が満たされる |
輸送業 | 壊さず、事故なく、確実に時間内に運ばれる |
さて、この付加価値という生産性の価値はいくら? と言われると困ってしまいます。サービスの生産性は、カツ丼のように313円と、はっきりと言い切ることができません。
つまり、生産性とは、(1)定義するのが困難で、(2)何の生産性を測ろうとしているのかでも指標や手法は異なり、(3)特に「サービス」は目に見えない無体財産であり、「技術、クオリティー、バラエティ、満足度」といった計測困難な、または主観に依拠する計測不可能なものが混在した複合体になっている、という、厄介なモノなのです。
そして、さらに訳が分からないのが、「工夫」です。これは、「マネジメント」や「イノベーション」などと言い換えられるものですが、この「工夫」の価値を算出することは、検討する前から「無理だろう」とさえ思えます。
「工夫 (= マネジメント、イノベーション)」は、突然現れて、瞬間最大風速的、かつ、爆発的な成長率で産業を押し上げます(例:蒸気機関、電力モーター、CPUやメモリ、インターネット)。
しかし、その一方で、「工夫」は、極めて短時間で世間に浸透して、あっという間に、差別化ポイントではなくなってしまいます。そして、技術のイノベーションの多くは、簡単にコモディティ化してしまうのです。
つまり「工夫」による変化率は大きいものの、それが持続する時間は短いというわけです。
以上をまとめてみますと、経済成長率というものは、「(1)人口増加→期待ゼロ(マイナス要因)」「(2)生産性の算出方法→不明」「(3)工夫の算出方法→検討もつかない」というように、どう取り扱ったらよいのか、さっぱり分からないモノから構成されているのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.