「半導体の可能性を強く信じる」 AppleのCOO:TSMCの創立30周年記念式典で(2/2 ページ)
TSMCの創立30周年記念式典で、Apple COO(最高執行責任者)であるJeff Williams氏が、TSMCとのパートナーシップや、半導体業界の今後の10年などについて語った。同氏は、半導体の可能性を強く信じていると強調した。
TSMC1社に絞るのは「賭け」だった
Morris Chang氏は、Williams氏に、「当社とAppleの協業関係は、それほど長いわけではない。だが、AppleはTSMCにとって極めて重要な顧客であり、強力な関係を築いている」と語った。
以下は、それに対するWilliams氏の返答だ。
「クレイ・リサーチがスーパーコンピュータ『Cray-2』を提供した1985年からわずか25年後の2010年に、AppleはCray-2と同レベルの処理能力をポケットサイズの『iPhone 4』で実現した。
AppleとTSMCのパートナーシップの最初の種がまかれたのは、2010年のことだった。私は台湾を訪れ、Morris Chang氏の自宅でおいしい夕食をごちそうになった。
Appleは当時、TSMCと取引していなかったが、会話が弾み、私たちはビジネスで協力する可能性について話しあった。最先端技術と両社の目標を結び付けることができれば、その可能性は高いと考えていた。
今考えればTSMCとのパートナーシップが実現することは明らかだったように思えるが、リスクが非常に大きく、当時はそうは思えなかった。
Appleのビジネスの本質は、全エネルギーを注いで製品を実現することだ。
サプライヤーをTSMC1社に絞ることは大きな賭けで、代替策はないということだ。生産計画を倍増することも不可能になる。当社は最先端技術を求めているが、確立された技術で量産できることが必要だ。
Chang氏は先ほど、Appleとの関係を“強力”だと述べたが、TSMCにとってそれは、ばく大な設備投資を行い、半導体業界ではお決まりの慎重な生産計画よりも速いスピードで増強することを意味するのかもしれない。
主導権を握るため、われわれは賭けに出た。Appleは新型iPhoneおよび『iPad』用のチップ、つまりはアプリケーションプロセッサの製造を全て、TSMCに委託することを決断した。こうした形を採るのは、Appleにとっては初めてのことだった。TSMCは初期投資として90億米ドルを投じた。また、台南にある製造施設では、6000人の従業員が11カ月という記録的な期間にわたり、夜も昼もなく働いてチップを生産し続けた。
そしてついに、そのような努力は完璧な形で実を結ぶこととなる。短期間で約5億個以上のチップを出荷したのだ。TSMCの投資額は最終的に250億米ドルに達したと思われる。これだけの投資を、しかも全く赤字を出すことなく投じられる企業は、世界的に見てもほとんどない。
このように、TSMCは素晴らしいパートナーシップを示してくれた。ここであらためて、Chang氏とTSMCの皆さんに感謝の意を伝えたい」
半導体業界、次の10年
さらに、「半導体業界の次の10年」について尋ねられたWilliams氏は次のように続けた。
「次の10年を予測するのは全く不可能なので、少し違う内容で回答させていただきたい。
10年前を振り返ると、当時のわれわれは『半導体は、高い目標を実現するのに十分な処理能力を備えているのだろうか』という疑問を持っていた。
モバイル革命の真っただ中にあった当時の大きな課題といえば、性能と消費電力の間のトレードオフだった。そのころはどちらかを選ばなくてはならなかったのだ。
ファブレスというビジネスモデルの成功や、TSMCの功績、(ARMのCEOである)Simon Segars氏をはじめこの会場にいる多くの方々の功績によって、今や前述したようなトレードオフを考慮する必要はなくなった。現在は、制約のある条件下でも高い性能を実現することは可能だ。さらに10年先には、全く新しい世界がわれわれを待ち受けてるはずだ。
次の10年では、『高い目標を達成するために十分な処理能力があるか』ではなく、『この技術を活用するための適切な目標を持っているか』が課題となるだろう。
われわれAppleは、最近議論の的になっている半導体産業の鈍化について、何ら懸念はしていない。半導体の可能性は極めて大きいと考えているからだ。もちろん、われわれはクラウドに大きな期待を寄せているが、将来的には、デバイスでの大量の処理が行われる時代が来るだろう。それが、応答性、プライバシー、セキュリティを犠牲にすることなく、素晴らしい機能をもたらす最善の方法だと確信している。
問題は、われわれが“適切な野心と目標を持っているか”ということだ。“自動的なイノベーション”というのはない。人間が夢を持ち、人間がそれを実現していくのだ。ディープラーニングはあっても、“自動的に起こるイノベーション”というのはない。これからの10年で、半導体の世界で何を実現できるのか。それは完全にわれわれ次第なのだ」
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