IBM、量子コンピュータを本格的に商用化へ:50qubitの試作も稼働に成功
IBMは、20量子ビット(qubit)の汎用量子コンピュータ「IBM Q」の本格的な商用化を間もなく開始するという。50qubitの試作機についても、稼働を確認したとしている。
50qubitの試作にも成功
IBMは、米国コロラド州デンバーで2017年11月12〜17日に開催されている「International Supercomputing Conference 2017(SC 2017)」において、オンライン上で無料で使用可能な量子コンピュータシステム「IBM Q」を商用化する予定であると発表した。
IBM Qは、無料で利用可能なトライアル期間を経て、実績ある性能を実現している。すぐに利用可能な20qubit(量子ビット)版と、50qubitの試作版を、クラウド経由で提供する予定だ。50qubit試作版は、現在最速とされるスーパーコンピュータでは対応できないようなNP困難問題でも、解くことが可能だという。
またIBMは、オープンソースのQISKit(Quantum Information Software Kit)も提供する。QISKitの重要な点は、量子コンピュータを使用しなくても、量子アプリケーションソフトウェアを作成、デバッグすることができるが、最初に既存のコンピュータ上で、精度を検証できるということにある。ソフトウェアを一度デバッグすれば、NP困難問題における目的を確実に達成することが可能だ。IBMは、「これまで実際に、6万人を超えるユーザーが、170万個以上の量子アプリケーションプログラム上でベータテストを実施し、QISKitのデバッグを行っている」と述べている。
IBMはSC 2017において、量子コンピュータ上で化学反応のシミュレーションを行うために構築した、特別プログラムを披露する。新しい触媒開発から創薬に至るまで、あらゆる分野に適用可能だという。成功への鍵となったのは、最大56qubitの試作版での取り組みとして、フォールトトレランスコードのエラー検出機能を完成させたことであるようだ。
さらにIBM Qは、90マイクロ秒を超えるコヒーレンス時間(量子状態を緩和して回答するまでの時間)を達成できるようになったため、20/50量子ビットシステムは、既存のスーパーコンピュータでは不可能な、極めて複雑なアプリケーションでも、解答することができるという。
IBMは2016年5月に、同社にとって初となる、5〜16qubitで動作可能なクラウドベースの量子コンピュータを、無料で利用できる「IBM Q Experience」を発表した。その後わずか18カ月で、IBM Q Experienceを20qubitにアップグレードし、さらに50qubitへのアップグレードも予定している。IBMのβテスターとして6万のユーザーや団体が登録されているが、その中には1500校の大学と300校の高校の他、民間企業300社も含まれるという。
利用可能なハードウェア上で必要な試験をマッピングするコンパイラ「IBM Data Science Experience」は、量子アプリケーションの課題に取り組んできた。また、量子コンピュータの概念とアプリケーション開発原理を、QISKitのチュートリアルにも取り入れている。チュートリアルは、新しい触媒の開発や創薬に向けた化学シミュレーションだけでなく、最適化問題に関する実証詳細についても提示するという。
IBMによると、IBM Qは、ビジネス/科学用途向けの普遍的な量子コンピュータシステムの実用化を目指す、「業界初」(同社)の取り組みだという。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 究極の大規模汎用量子コンピュータ実現法を発明
東京大学工学系研究科教授の古澤明氏と同助教の武田俊太郎氏は2017年9月22日、大規模な汎用量子コンピュータを実現する方法として、1つの量子テレポーテーション回路を無制限に繰り返し利用するループ構造の光回路を用いる方式を発明したと発表した。 - 量子コンピュータの量子的エラーを迅速に評価
東京大学と科学技術振興機構(JST)は、一般的なデスクトップPCを用いて、量子コンピュータの内部で発生する量子的なエラーを正確かつ高速に評価することができる数値計算手法を見いだした。 - IEEE、量子コンピューティングの定義策定へ
IEEEは、あらゆる分野で量子コンピュータを、より使いやすいものにするべく、量子コンピューティングの定義策定に向けてプロジェクトを立ち上げた。 - IBMのスパコン、ガン治療費の削減に光明
陽子線をガン細胞に照射して死滅させる陽子線治療。ガンの最先端治療として期待されているが、費用が高額で、照射ポイントの決定に時間がかかるのがデメリットとなっている。IBMの基礎研究所は、スーパーコンピュータを利用することで、陽子線治療の費用を下げられると提案する。 - 原子が“主演”の映画、IBMが製作【動画あり】
IBM Researchが、原子を使って製作した1分半の映画を公開した。走査型トンネル顕微鏡を使って、何千個もの原子を人や物の形に正確に配置した静止画像を作り、それをコマ撮りしたという。 - 東北大学、量子ドットの発光強度を自在に制御
東北大学の蟹江澄志准教授らは、硫化カドニウム(CdS)量子ドットとデンドロンからなる「有機無機ハイブリッドデンドリマー」を開発した。このデンドロン修飾CdS量子ドットは、非対称性の高い液晶性立方晶構造を形成している。量子ドットの発光強度を自在に制御できることも分かった。