BroadcomによるQualcomm買収は実現するのか:鍵は特許の売却?
Qualcommに大型買収を持ちかけたBroadcomだが、Qualcommはこれを拒絶した。ただ、今後もこの買収話は浮上する可能性がある。
Qualcommは、はっきりと拒否
Broadcomが、Qualcommに1000億米ドル以上の買収を持ちかけていると報じられた。その約1週間後、Qualcommは正式なリリースで、この申し出を断ったと発表している。このような過去最大規模の買収の申し出が拒絶されたのは、決して驚くようなことではない。
BroadcomのCEO(最高経営責任者)であるHock Tan氏は、文書の中で、「これまで両社間で、合併の可能性について非公式に話し合ってきたが、Qualcommの同意を得ることができなかった。このため当社は、敵対的買収を仕掛けていく考えだ」と述べている。
Qualcommは、短い公式声明の中で、「1株当たり70米ドルという価格では、Qualcommが大幅に過小評価されることになる」と主張し、実際にコメントしてはいないが、「当社には少なくとも、従業員と株主たちのために、より高額な買収金額と有利な取引条件を要求していく責任がある」という重要なメッセージを発信する形となった。
Reuters(ロイター通信)の報道によると、ウォール街は、こうした動きに好意的に反応し、Qualcommの株価は約1ポイント上昇し、Broadcomの株価は約1ポイント下落したという。
Hock Tan氏は強気な姿勢を維持し、「1株当たり70米ドルという価格には、Qualcommの最近の株価に28.33%のプレミアムが付与されている」とする声明を即座に発表した。
Tan氏は、一部の投資家たちの不安を煽りたいと考えているようだが、そのためには、さらに買収金額を吊り上げなければならない可能性がある。Qualcommが強硬姿勢を崩さず、「理事会が、法律顧問や財務顧問とともに包括的な見直しを行い、満場一致で決定した結果だ」と主張することになれば、今後も何度か入札ラウンドが行われることになるだろう。
買収金額の問題ではない?
筆者は今回の件について、単に買収金額が問題なのではないかとみている。QualcommのエグゼクティブチェアマンであるPaul Jacobs氏は、自らその成長に貢献し、自身の父親が共同創設者であるQualcommが、Tan氏の言う「Broadcomのプラットフォーム」の一部になるのが我慢できないのだろう。文化の衝突は大きな影響力を及ぼすため、コスト面や管理面の制約の中で、経営幹部やエンジニアたちが会社を去っていく可能性もある。しかしTan氏は、おそらく強行するのではないかとみられる。
Tan氏は、Qualcommを買収したいのであれば、現金や株式だけではない、何か他の方法を見つけるべきだろう。Qualcommは、NXP Semiconductorsの買収を完了させることに苦戦しているが、この辺りが、BroadcomにとってはQualcommの態度を軟化させるポイントとなるのではないだろうか。
スマートフォン市場が減速し、半導体業界では過去3年間で歴史的な統合が進んでいく中、Qualcommは確かに自らの位置付けを強化していく必要がある。このままでは、ウォール街や、物言う株主の圧力の中で、生き残っていくことはできないだろう。
QualcommのCEOであるSteve Mollenkopf氏は声明の中で、「半導体業界の中で、モバイルやIoT(モノのインターネット)、自動車、エッジコンピューティング、ネットワーキングなどの市場において、当社より優れた位置付けを確保できている企業は1つもない」と述べているが、筆者としては、この見方に賛同することができない。
NXPの買収が完了すれば、確かにそうなるかもしれない。しかしQualcommは、NXPの存在がなければ、自動車市場において比較的小さい足掛かりしか得られず、IoTおよびエッジコンピューティング市場では、ARMのライセンシー6社の中の1社であること以上の位置付けを得ることはできないだろう。
買収が承認される鍵の1つは、特許ポートフォリオの売却だ。Qualcommのライセンス慣行については、さまざまな国で法的係争が起こっている。Appleとも泥沼の状態が続いているのはご存じの通りだ。Tan氏は、Qualcommの特許を売るのをためらわないかもしれないが、Jacobs氏は決してそれを許さないだろう。
この買収話に関しては、今後も何度か浮上するに違いない。もしEUと中国が、QualcommによるNXPの買収を承認すれば、Broadcomからは逃れられるかもしれない。もし承認しなければ、Broadcomが両社を1つずつ、手に入れる可能性も否定できない。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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