低周波数帯を使う5G、最後の砦は「波形をいじる」:帯域幅の“無駄使い”をなくす(1/3 ページ)
5G(第5世代移動通信)向けの技術では、ミリ波の研究成果が目立つが、低周波数帯もLTEに引き続き重要になる。ただ、特に6GHz帯以下は逼迫(ひっぱく)していて、とにかく周波数がない。京都大学では、低周波数帯において周波数の利用効率を上げる新しい変調方式を開発している。
低周波数帯の活用も不可欠
規格策定が進む5G(第5世代移動通信)。国内外では5Gの実証実験が進んでいるが、特に目立つのがミリ波を使った実験だ(関連記事:スカイツリー〜浅草間で28GHz帯5Gの伝送に成功)。標準化団体の3GPPが、2018年6月に策定を完了する予定のPhase 1では、特にミリ波の使用に焦点を当てた議論が進んでいる。
だが、5Gに必要な周波数帯は、当然ながらミリ波だけではない。むしろ6GHz帯以下など低周波数帯の活用も不可欠だ。理由は幾つかある。まず、そもそもミリ波は、ブロードバンド通信向けには技術が確立されていないからだ。また、高周波数帯の信号は、例えば広いオフィスなどですみずみまで通信するのは難しい。さらに、できるだけ現行のLTEと互換性がある通信方式を使い、基地局に掛かるコストを抑えたいという要求もある。
加えて、5Gはブロードバンドに限らず、IoT(モノのインターネット)にも使われることが想定されている。IoTの用途ではブロードバンドほどのデータレートは必要ないことがほとんどだ。基本的には、低周波数帯域において、狭い帯域幅のチャンネルをいくつも使うことになるとみられている。つまり、超高密度化が求められることになる。
だが、低周波数帯は既に逼迫(ひっぱく)しているのが実情だ。どうすれば、超高密度化が可能になるのか――。
京大が開発した新たな変調方式
1つの方法が、京都大学大学院情報学研究科の研究グループ(原田研究室)が開発した新しい通信方式「UTW-OFDM(Universal Time-domain Windowed直交周波数分割多重)」だ。現行の無線LANシステム(IEEE 802.11a/g/n/ac)やLTE(下り)に使用されている「CP(Cyclic Prefix)-OFDM」をベースに開発された。
CP-OFDMは、帯域内の周波数利用効率が高いという利点はあるが、一方で、割り当てチャンネル帯域外に漏えいしてしまう電力(帯域外輻射電力)が大きいという課題がある。送信信号の隣接シンボル間に存在する信号の不連続点が周波数軸上の不要成分となり、帯域外輻射電力が発生してしまうのだ。帯域外輻射電力が高いと、帯域幅を無駄に使用していることになり、周波数効率が悪くなる。
CP-OFDMで、帯域外輻射電力が発生するイメージ。図版右側で、赤い点線で囲まれたところが低いほど、帯域外に電力が漏れ出ていないことになり、その分、帯域幅を狭められる。つまり、狭い帯域幅を幾つも設けることができるので、周波数効率が上がる 出典:京都大学 原田研究室(参考リリース) (クリックで拡大)
送信信号の帯域外輻射電力が大きいことによるデメリット。例えばシステムAの帯域外輻射電力が大きいと、システムBやシステムCの帯域に干渉し、受信品質の劣化や、送信できないといった不具合の原因になる 出典:京都大学 原田研究室 (クリックで拡大)
UTW-OFDMは、計算量の少ない「時間軸窓処理」を用いることで、シンボル間に存在する信号の不連続点を平滑化し、周波数軸上の不要成分の発生を抑える方式だ。さらに、強力な誤り訂正処理をかけて、シンボル間干渉などを取り除く。これにより帯域外輻射電力を大幅に抑えられるという。つまり、“帯域幅の無駄使い”を減らせることになる。
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