LED光源が空間を飛び回る、空中ディスプレイ:蛍のように光る
東京大学と慶應義塾大学らの研究グループは、空中を浮遊し自由に移動することができるLED光源を開発した。手に触れることができる空中ディスプレイを実現することが可能となる。
超音波集束ビーム技術と無線給電技術を採用
東京大学の高宮真准教授や川原圭博准教授、星貴之客員研究員と慶應義塾大学の筧康明准教授らによる研究グループは2018年1月、直径が4mmと極めて小さいLED光源を開発したと発表した。無線給電により発光しながら空間を自由に移動し、手で触れることが可能な空中ディスプレイを実現することができる。
「Luciola(ルシオラ:ゲンジボタルの学名)」と名付けた小型LED光源には、LEDチップや無線給電の受電用コイル、専用の電源ICなどを実装したプリント基板が組み込まれている。外形は直径が4mmの半球形状で、重さはわずか16mgである。
ルシオラは、発光しながら3次元空間を自由に移動できるよう、「超音波集束ビームを用いた物体の空中遊泳・移動技術」や「浮遊したLED光源へエネルギー供給するための無線給電技術」などを用いている。
物体を空中遊泳、移動させるため、17cm角の超音波アレイを2台用意し、距離を20cm離して対向に設置した。超音波アレイには、それぞれ40kHzの周波数を発する超音波スピーカーを2次元格子状に17×17個並べた。
それぞれの超音波スピーカーを駆動する電気信号の位相を最適に制御することで、2台の超音波アレイ間の1点に超音波ビームの焦点を集めることができる。この焦点位置に物体を入れると浮遊する。超音波スピーカーの位相を制御し、超音波ビームの焦点を動かすと、ミリメートル単位の精度で物体を空中移動させることができるという。
超音波で物体を浮遊させるには、物体自体を小型軽量化する必要がある。今回は無線給電方式とすることで、内蔵する電池を不要とした。また、LEDを駆動するための電源回路も1mm角のチップに集積して小型化し、超音波による浮遊を可能にした。
ルシオラへの電源供給は、近くに設置した直径31mmの給電用コイルを用い、12.3MHzの磁界共振結合方式で給電を行う。新たに開発、採用した専用ICにより、LEDへの電源供給も安定しているという。
開発したルシオラを用いると、3次元空間内でLEDを点滅させることで、文字や図形を表示できる。人間の視線に合わせて照明位置を移動する読書灯なども可能になるという。
研究グループは今後、LED光源の数量を増やすことで発光画素を多点化し、空中ディスプレイの表現力を高めていく。また、空間を浮遊する物体にセンサーやアクチュエーター、無線通信といった機能を追加するなど、IoT分野に展開するための研究にも取り組む予定である。
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