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予算なき量子コンピュータ開発、欧米より一桁低い日本を憂うイノベーションは日本を救うのか(23)番外編(2/3 ページ)

今回は番外編として、量子コンピュータについて少し触れてみたい。日本が開発した量子コンピュータの原理を、いち早くハードウェアに実装したのは、カナダのD-Wave Systemsであった。

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欧米とは予算が一桁低い日本

 だが、「もったいない……!」というのが、筆者の偽らざる印象だ。もちろん筆者も、「日本発」にこだわっているわけではない。だが、日本生まれの量子コンピュータ原理のハードウェア実装が、他国に先を越されてしまったというのは、やはり残念だという気持ちを否めない。

 翻って、量子コンピュータの開発費用に目を転じれば、米国は毎年220億円、EUは2019年以降の10年間で1300億円を投資する。一方で日本は、2018年度の予算が約20億円(32億円を計上していたが減らされた)、今後10年間で220億円である。米国や欧州とは、1桁も少ないのだ。危機感を抱かずには、いられない差である。まして、量子アニーリング方式は日本発なのに、寂しい限りである。


D-Wave Systemsが開発した量子コンピュータのチップ 出典:D-Wave Systems(クリックで拡大)

 前述のように、日本には量子アニーリング方式の他に、レーザーネットワーク方式で研究開発を進めている研究者・研究機関もある。もちろんそれでも構わないが、もともと予算が少ない中、研究が分散して行われてしまっているならば、“日の丸”だけで頑張らなくてもよいと筆者は思っている。

 ただし、量子コンピュータの実用化が視野に入ってきた現在、D-Wave Systemsは、民間レベルではコンサルタントの支援を得ながら民間企業との連携を含めて日本市場進出を図っているが、JST(科学技術振興機構)や文部科学省の枠を越え、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のような国の研究開発機関や、経済産業省などがもっと強いリーダーシップを執って、オープンイノベーションも含めて主導すべきではないだろうか。国の強い後押しが、今こそ必要な時期だと筆者は考える。

 量子コンピューティングは、ヘルスケア、フィンテック、バイオサイエンス、コンピュータビジョン、機械学習といった分野で、間違いなくこれからの世の中を変えていく。国として資金をもっと投入し、他国の技術でもいいから活用すべきである。

 一例を挙げると、米国にD-Wave Governmentという会社がある。名前からすぐに推察できると思うが、これは2013年に、米国バージニア州に設立されたD-Wave Systemsの子会社だ。D-wave systemsはカナダの企業だが、D-Wave Governmentは米国政府と大変緊密な関係を持っている企業だ。“バージニア州”というと、ピンとくる方もいるかもしれない。実は、D-Wave Governmentの幹部には、CIA(中央情報局)で重要なポジションに就いていた人物や、元国防総省の人物など、そうそうたるメンバーがそろっている(その分、量子コンピュータの軍事応用が透けて見える気もするが)。このように米国は、他国のものであっても、良い技術なら取り込んでいくという姿勢がある。

 日本も政府主導で動きを起こすべきだ。そうでなければ、また日本は後追いになってしまうだろう。

 それでもいいのか――。国に問いたい。

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