予算なき量子コンピュータ開発、欧米より一桁低い日本を憂う:イノベーションは日本を救うのか(23)番外編(3/3 ページ)
今回は番外編として、量子コンピュータについて少し触れてみたい。日本が開発した量子コンピュータの原理を、いち早くハードウェアに実装したのは、カナダのD-Wave Systemsであった。
先端のベンチャー企業が集まる町
D-Wave Systemsの本拠地があるのは、カナダのバーナビー(Burnaby)という町だ。
筆者は、2017年8月にこのバーナビーに招待され、非常に面白い体験をした。同じ町にいて、たった半日のうちに「世界一、寒い場所」と「世界一、暑い場所」の両方を訪問したのだ。
D-Wave Systemsが開発している量子コンピュータは15mK(ミリケルビン)、つまりほとんど絶対零度(−273℃)の環境で稼働させる。筆者は、その極低温の環境を見学して、その後すぐに、今度はGeneral Fusionという核融合エネルギーの事業を手掛けるベンチャー企業を訪問し、その施設を見学した。核融合を起こすわけなので、非常に高温である。太陽の中心温度は1500万℃だが、これを実現しているのだ。わずか何時間の間で、極低温から超高温の環境に移動することなど、普通ではあり得ない。ものすごくエキサイティングな体験だった。もう1つ、付け加えると、本連載の第15回「“技術の芽吹き”には相当の時間と覚悟が必要だ」で取り上げたBallard Power Systemsも、この町にある。
これだけ大きな社会的インパクトを及ぼすようなイノベーションを進めている企業が、決して大きいとはいえないバーナビーという、バンクーバーの隣町に密集していることは非常に興味深い。筆者はその要因をいつか近いうちに解明したいとは思っている。
⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー
Profile
石井正純(いしい まさずみ)
日本IBM、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーにAZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。
米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍。
AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
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