「G」と「L」で考える発展途上の産業エレクトロニクス市場:大山聡の業界スコープ(3)(2/2 ページ)
半導体メーカー各社は、民生機器に変わる半導体アプリケーションとして車載機器、産業用機器向けに注力しているが、どのような戦略が正解かという答えは導き出されていない。また、車載機器、産業用機器市場のユーザーも、どの半導体を選ぶべきかで迷っていると聞く。今回は、発展途上にあるといえる産業エレクトロニクス市場の将来について考える。
車載も産業機器もいずれはGへと移行する
本連載の前回の記事で、「車載半導体市場の現状と今後の行方」について書いたが、今後注目される車載機能で注目されているADAS(先進運転支援システム)、V2X(車車間/路車間通信)、EV(電気自動車)化などについては、地域ごとの規制や交通事情が異なるにも関わらず、世界中でほぼ同時に普及が進んでいるように見える。特にIntel、NVIDIA、Qualcommといった半導体メーカーが、Gの世界で覇権争いを始めたことが注目を集めている、と言ってよいだろう。もちろん、クルマに求められる機能や用途は地域によって異なるだろうから、ローカルのニーズを意識したLの戦略は必要だが、自動車メーカーにとっても今後はGの世界でのシェア争いを今まで以上に意識せざるを得なくなるのではないだろうか。日系企業はADAS、V2X、EVで後れを取っている、などという状況は決して容認できることではないはずだ。
そして産業用機器においても、今後はGの世界の争いが徐々に増えるのではないか、と筆者は予想している。この分野でIoT(モノのインターネット)およびAI(人工知能)の活用が進むことで、LからGへの移行が加速するのではないか、と考えられるからである。自動車の世界におけるV2XはIoTを活用したものだし、ADASの最終目的である自動運転にAI技術は欠かせない。産業用機器市場にも同様の変化が起こることは必須で、その競争は世界各地ですでに始まっているのだ。この争いを半導体メーカーがリードするのか、機器メーカーがリードするのか、まだ混迷しているようだが、ここでは双方の視点から考えてみたい。
半導体メーカーも機器メーカーも暗中模索
半導体市場における産業用機器向けの出荷は、全体のおよそ12%程度と推定される。車載向けの同9%を上回るレベルだが、この中には医療、FA、計測、セキュリティ、ビル管理、エネルギーなどさまざまな分野が含まれており、それぞれの分野における半導体消費は車載向けをはるかに下回る。つまり半導体メーカーにとってあまり魅力的なターゲット市場とはいえず、これまで重要視されてこなかったのが実情である。
しかし、これからはIoTの導入で産業機器が変わる、最も伸びしろの高い半導体市場になる、という期待とともに注目が集まり始め、昨今ではAIの導入も一緒に議論されるケースが増えている。
半導体メーカーとしては、特定顧客を数社選んで事例の具体化を目指す一方、Webサイトを充実させて不特定多数顧客への情報開示を積極的に行う、という行動が目立つ。特定顧客の選び方、Webサイトでの見せ方、いずれも試行錯誤を繰り返している、という苦労話が聞こえてくる。
一方の産業機器メーカー側としては、半導体メーカーのWebサイトから情報を入手し、どのデバイスを採用するか、ほぼ意を決してから半導体メーカーにコンタクトする、というケースが少なからずあるようだ。
民生機器のように大量生産が必要なわけではなく、製品の開発サイクルも長いので、半導体メーカーとの接触頻度は必然的に低くなる。特にカスタムICの開発が必要な場合は、選択肢も限られてくるので、メーカーの選定には非常に神経を使うという。
IoTプラットフォームを中心としたグローバルな争い?
産業機器という分野は、半導体メーカーと機器メーカーの関係が他の分野に比べて希薄で、双方が暗中模索しているのが実情だろう。
筆者としては、IoTプラットフォームが台頭することで双方が会話しやすくなるのではないか、などと考えている。例えば日立製作所の「Lumada」、General Electric (GE)の「Predix」など、産業機器分野で実績を持つ大手が提唱するIoTプラットフォームが普及することで、この分野への半導体メーカーのアプローチ方法が大きく変わるのではないだろうか。現時点ではどのプラットフォームが優勢なのか判断が難しいが、これらの普及が活用事例の引用を容易にし、産業IoTの普及自体が加速する可能性が高い。ともすればIoTの普及が後手に回りそうな日系企業、あるいは日本市場の巻き返しと活性化を願いながら、自体的な実例の積み上げに期待したいものである。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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