日系企業は「Lの世界」こそ重要視すべき:大山聡の業界スコープ(4)(1/3 ページ)
「G(グローバル)の世界」と「L(ローカル)の世界」に類別される経済圏。半導体産業では、車載や産業機器などの分野でLからGの世界へと移行が加速している。今回は、本連載の前回記事に引き続き、「Gの世界とLの世界」について日系企業の進むべき道を考察する。
前回のこのコーナーで、「Gの世界とLの世界」について書かせていただいたところ、幸いなことに少なからぬ反響があった。実は、前回言及しきれなかった部分もあるので、「GとL」に関する私見をいま一度追記させてもらいたい。他人(冨山和彦氏)のふんどしで相撲を取るような、あるいは柳の下の2匹目のドジョウを探すような、そんな気がしないでもないが、お付き合いいただければ幸いである。(関連記事:「G」と「L」で考える発展途上の産業エレクトロニクス市場)
Gの世界を無理やりLの世界に変えても意味がない
政治の世界に足を踏み込むのは筆者の本意ではないが、昨今トランプ米大統領が鉄鋼やアルミニウム、あるいは中国製品の輸入に対して関税をかけると主張していて、経済界からひんしゅくを買っていることに言及してみる。
同大統領の主張は、既に形成されているGの経済に規制をかけることを意味しており、これはユーザーである米国にも、ベンダーである中国およびその他の輸出国にも、デメリットの方がはるかに大きい。Gの世界で勝ち残れなかった一部の米国企業を一時的に保護することはできても、そして同大統領の中間選挙での得票数にある程度の効果はもたらしたとしても、それが精いっぱいであろう。だから株式市場も極めてネガティブに反応したのである。
そもそもあの大統領は、AppleのiPhoneシリーズがほぼ100%中国製であることを理解しているのかな、自分がかぶっている帽子に「Made in China」という表記があることを知っているのかな、などと心配にもなるのだが、それこそ大きなお世話なので、ここではこれ以上突っ込んだ議論は差し控える。筆者としては、既に形成されているGの世界を無理やりLの世界に変えようとする政策には意味がない、ということを申し上げたいだけだ。
前回のおさらいになるが、生産地や消費地といった地域の特長が重要視されるのがLの世界、地域色が重要視されないのがGの世界である。「どこで生産しようが、どこで消費しようが関係ない、安い方が良い」というGの世界は、世界中のユーザーがそれを望んでいるのであって、これを「ケシカラン」などと言ってもどうしようもない。特定の地域の経済を活性化させるためには、「ここで生産することに価値がある」「その需要はこの地域にしかない」という産業を育てることが大事なのだ。
「わが地域に巨大な工場を誘致したい」といった話はさまざまな地域の企業誘致担当から聞かれるが、その地域の特長が生かされるかどうか(そこで生産することに価値があるかどうか)を最初に見極める必要がある。そうでないと、工場が立ち上がってからGの世界で勝ち残れなかった時、立ち上げよりもはるかに難しいリストラや閉鎖を余儀なくされる。
筆者は、そんな事例を日本各地の半導体工場でたくさん見てきた。1000人もリストラしないでくれ、この地域の経済はどうなる、というつらい話に発展し、全ての関係者を不幸に突き落とすのが関の山で、米国大統領の暴挙を笑うこともできなくなる。
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