日系企業は「Lの世界」こそ重要視すべき:大山聡の業界スコープ(4)(2/3 ページ)
「G(グローバル)の世界」と「L(ローカル)の世界」に類別される経済圏。半導体産業では、車載や産業機器などの分野でLからGの世界へと移行が加速している。今回は、本連載の前回記事に引き続き、「Gの世界とLの世界」について日系企業の進むべき道を考察する。
L型の産業を「育てる」ことが必要
Gの世界で勝ちを収めることは、その「企業」の価値を高める効果があるが、その企業が所属する「国や地域」を潤すとは限らない。その企業の工場周辺の地域を活性化することはできても、企業としては利潤追求のために常にコストの安い生産拠点を求めているので、「その地域に根付く」という保証がないのだ。特定地域の経済活動を活性化するためには、G型の産業に依存してはいけない。L型の産業を「育てる」という発想を持つことが重要である。その場合、「L型生産」と「L型消費」の両面を考える必要があるだろう。
まず「L型生産」についてだ。代表的なのは農林水産業で、「どこで生産されたか」が重要視される。かつて農業王国だった日本は、農業人口の減少に歯止めをかけることができず、産業としては衰退の一途をたどっているが、最近では「スマート農業」が注目を集めつつあり、もしかしたら再生できるかも、という期待が見え隠れする。
スマート農業はロボット技術やITを活用した次世代型農業を指す言葉で、農林水産省にも研究会が設置されている。この研究会では、
- 農業機械の自動走行
- センサーを活用した農作物生育データの計測と分析
- センサーで取得した情報などを活用した多収化や品質向上
- 重労働や危険な作業を軽減するためのアシストスーツ
- プロ農家のノウハウをデータ化した、新規参入者向けのエキスパートシステム
- クラウドを利用したマーケティング活動によって何を作るかを決定する支援システム
などが研究テーマに挙げられている。
例えば「センサーで得た情報を活用して多収化や品質向上を狙う」というアイデアは、ネットとは無縁だった世界をネットにつないで付加価値を生む、IoT(モノのインターネット)の発想そのものだ。農業はこれまで、従事者の知識や経験に頼る部分の多い産業だったが、これからはデータに基づく科学的産業へ生まれ変わる可能性があり、その具体的な姿がスマート農業なのである。
農業をスマートな産業へ変身させることで、若い世代に対する訴求力を高められるかもしれないし、地域に根付いた産業としての再活性化にも期待できる。改善は無理、と諦めていた課題をスマート化によって克服できれば、産業としての魅力は増すだろう。
農業そのものは1次産業だが、農産物を加工する2次産業、そしてそれを流通、販売させる3次産業を組み合わせた「6次産業」という形態も注目されている。それだけ付加価値も追求できるし、農業従事者の所得を向上させることができれば、産業としての活性化につながる可能性が高い。
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