情報社会の大いなる“裏方”、光伝送技術:光伝送技術を知る(1)(3/3 ページ)
地球上に、網の目のごとく張り巡らされている光ファイバーネットワークなど、光通信は、われわれの生活に身近な技術である。だが、専門外の技術者にとっては「難しそうで近寄りがたい分野」だと思われているようだ。この連載では、おさえておきたい光伝送技術の基礎と現在のトレンドを分かりやすく解説していく。
世界を結ぶ光バックボーン網
情報データは、都市レベル、国家レベル、大陸および地球レベルで張り巡らされた光ファイバーバックボーン網を通じて伝送される。それぞれ数十、数百、数千キロの伝送に最適な伝送方式や装置が開発されている。海底に光ファイバーケーブルを敷設する海底光通信網は、地上工事がほとんど不要なため大陸間、国家間のみならず海岸線を有する国の国内網としても利用されている。陸地では地下に敷設されるが、家庭の近くなどでは電線のように空中に張られる。また、鉄道や道路、送電線沿いにも多くの光ケーブルが引かれている。
ただし、遠距離になるほど、ケーブル敷設費用は膨大な金額になる。そのため、最先端の技術を駆使して、光ファイバー1本あたりの伝送容量を増大する研究開発が続けられている。現在、1本のファイバーで10T〜20Tbpsの伝送が実用化されていて、さらに、これを100Tbpsまで向上することを目指して研究開発が進められている。
1988年のITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)における世界統一規格「同期デジタル・ハイアラーキ(SDH: Synchronous Digital Hierarchy)」の制定後、光通信の通信容量や伝送距離は、大幅に進化を遂げてきた。
例えば1990年代は、1本のファイバーに約100波長の光信号を重畳する波長多重伝送方式と、光信号を増幅するファイバーアンプ技術が実用化された。2010年ごろには、1波長当たり100Gbpsの光信号伝送に向けたデジタルコヒーレント受信方式が開発された。現在では、1波長当たり400Gbpsあるいは600Gbpsの光信号の波長多重伝送方式を導入する動きが始まり、さらなる高速大容量化が進められると期待されている。
さらに、現在の光ファイバーにコアは、1本だが複数本にした「マルチコア」と呼ばれる光ファイバーが開発され、空間多重方式の実証実験が活発化している(参考リリース)。
「近く」まで来ている光アクセス網
現在、日本の世帯数の約60%が光ファイバーでつながれ、インターネット、テレビ、電話などのサービスが提供されている。このような家庭や企業などからバックボーン網までをつなぐネットワークをアクセス網という。低価格でサービスを提供するために、低コストを実現する伝送方式が採用されている。日本と韓国を除くと、世界の国々における家庭への光ファイバー接続割合は20%以下である。そのため、これからも世界中で光ファイバーの敷設が進められると期待されている。
スマホの電波を送受する「4G(第4世代移動通信)」モバイル基地局の多くは光ファイバーでつながれている。基地局とバックボーン網までをつなぐネットワークをモバイルネットワークあるいは無線アクセス網(RNA: Radio Access Network)という。実用化間近といわれる次世代「5G(第5世代移動通信)」モバイルネットワークでは、基地局の数が現在の10倍以上必要とされており、ファイバーケーブルの敷設と有効利用が課題となっている。
このように、地球を覆う光ファイバーネットワークは情報化社会の「縁の下の力持ち」である。5GやIoTなどの登場や普及で、今後も、データ量は増加の一途をたどっていく。これに応えるべく、光ファイバーネットワークの構築が進められているのである。
(次回につづく)
筆者プロフィール
高井 厚志(たかい あつし)
30年以上にわたり、さまざまな光伝送デバイス・モジュールの研究開発などに携わる。光通信分野において、研究、設計、開発、製造、マーケティング、事業戦略に従事した他、事業部長やCTO(最高技術責任者)にも就任。多くの経験とスキルを積み重ねてきた。
日立製作所から米Opnext(オプネクスト)に異動。さらに、Opnextと米Oclaro(オクラロ)の買収合併により、Oclaroに移る。Opnext/Oclaro時代はシリコンバレーに駐在し、エキサイティングな毎日を楽しんだ。
さらに、その時々の日米欧中の先端企業と協働および共創で、新製品の開発や新市場の開拓を行ってきた。関連分野のさまざまな学会や標準化にも幅広く貢献。現在はコンサルタントとして活動中である。
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