NEC史上最年少で主席研究員になった天才がもたらした、起死回生のチャンス:イノベーションは日本を救うのか(27)(2/3 ページ)
1990年代、シリコンバレーでのコーポレートベンチャリング活動で、うまくいったとは言えないNEC。そこからは、コーポレートベンチャリングに対しては守りの経営が長く続いた。だが、NEC史上最年少で主席研究員となった、ある人物がそれを大きく変えようとしている。
「ベンチャーとして育てたい」、上層部に直談判
こうして、データ分析自動化ソリューションの開発に本腰を入れるようになって少したった2016年に、転機が訪れた。
三井住友銀行(SMBC)のサンフランシスコ支店のメンバーが、データ分析自動化ソリューションに目を付けたのである。SMBCは、ある金融商品を誰が購入するのか、といった予測のモデルを作りたいと考えていた。そのためには当然、さまざまな種類の膨大な量のデータと、それらの分析が必要だ。SMBCが予測モデルの生成に、藤巻氏らのデータ分析自動化ソリューションを適用した結果、これまでSMBCのデータサイエンティストたちが数カ月かかって作り上げていたモデルよりも優れたものが、わずか1日ほどで完成したという。
「これはすごい」と一同は沸き立った。この反応を見た藤巻氏は、「データ分析自動化ソリューションを、きちんとしたビジネスに育てなければならない」と強く感じたという。
では、どう事業化すればいいのか――。藤巻氏は、NEC本社と徹底的に議論を重ねた。「技術は、研究開発と製品化、マーケティングを同時並行でやらなければならない」というのが、藤巻氏の持論である。アルゴリズムの開発が完了したから、では次にそれをソフトウェアに……と、1つずつやっていったのでは、あまりにも時間がかかり過ぎるのだ。
藤巻氏は、データ分析自動化ソリューションの技術をカーブアウトして、ベンチャーとして育てたいとNECの上層部に直談判した。
藤巻氏にとって幸運だったのは、カーブアウトの案件を相談した相手が、藤巻氏の味方となって強力に後押ししてくれたことだ。具体的には、NECのビジネスイノベーションユニットに相談したのであるが、その担当者が、「データ分析自動化ソリューションの技術をカーブアウトすることは、長い目で見ると絶対にNECのためになる」と本社を説得したのだという。
もともと、トップマネジメント層も、データ分析自動化ソリューション技術について期待していたこともあり、カーブアウトへの道は決して簡単ではなかったが、どうにか実現にこぎつくことができた。NECにしても、「やる気のある精力的な人間をNECに縛り付けたところで、いつかはNECを離れてしまうだろう。それならば、双方にとって最も良い形となる方向を検討したい」という考えであったという。
こうしてdotDataは誕生し、独立したベンチャーとして進んでいくこととなった。データ分析自動化ソリューションに関わるIP(Intellectual Property)についても、ほとんどがNECからdotDataに移管される。次のラウンド(資金調達)からは、アメリカのベンチャーキャピタルからも資金を調達していく予定だ。
重要な技術をNECがカーブアウトした3つの理由
さて、IPもかなりの部分が藤巻氏の手元に置かれるとなると、NECにとって、dotDataをカーブアウトする利点とは何だろうか。
藤巻氏の話からは、大きく3つあることが読み取れる。
まずは、マネタイズの最速化だ。データ分析自動化ソリューションは、大化けする可能性が高い技術である。カーブアウトしてNECも資本参加することで、NECそのものの企業価値が上がる。藤巻氏は「一番の目標はIPO(新規公開株)」だと話してくれたが、NECが、成長したdotDataを買収したり、あるいは他社がさらに大きな金額で買収したりすれば、NECは多額のキャピタルゲインを得られることになる。そのおカネを使って次の新規案件を育てる、という道も開けるわけだ。
2つ目は、エンタープライズデータサイエンスの市場価値だ。この市場は、次の3〜5年が花であり、「絶対にその期間で勝負が決する」とまで藤巻氏は言い切っている。NECにとっては、この時期に外に出して、プロダクトを最高の状態までもっていくことが不可欠であるわけだ。実は、dotDataの製品は、日本ではNECが独占販売権を持つ。NECとしては、本拠地である日本で、どんどん販売したいわけだ。
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