高齢者介護 〜医療の進歩の代償なのか:世界を「数字」で回してみよう(51) 働き方改革(10)(2/10 ページ)
今回から数回にわたり、働き方改革における介護を取り上げます。突然発生し、継続し、解決もせず、被介護者の死をもってのみしか、完了しない高齢者介護。まずは、私自身の体験に基づく、高齢者介護の実態について語ります。
被介護者の死をもって完了する「高齢者介護」
こんにちは、江端智一です。
今回は、政府が主導する「働き方改革」の項目の1つである、「子育て、介護、障害者就労」の中の、「介護」の"全体像の把握"と"介護のテクノロジー"について、考えていきたと思います*)。
*)政府の働き方改革における「介護」の内容や対策については、次回以降に見送ります。
最初に申し上げておきますが、今回も、人道的または倫理的にタブーとされていることに、調査結果と数字とエンジニアリングアプローチで切り込みます。表現についてもオブラートで覆うような配慮は一切行いません。多くの人が「思っていても口にできないようなこと」(と思われるようなこと)でも平気で記載します。
不快な気持ちになりたくない人、不愉快な気分を避けたい人は、ここで、このコラムを読むのを中断することをお勧めします。いちるの希望の光もない、暗く、絶望的な気持ちになることを保証します。
……よいですね?
では、始めます。
政府が、「働き方改革実行計画」の中の「子育て、介護、障害者就労」の項目で挙げている事項を読んで、私が連載第1回「上司の帰宅は最強の「残業低減策」だ 〜「働き方改革」に悩む現場から」に記載した課題と所感は以下の通りです。
介護とは、「障害者の生活支援をすること。あるいは高齢者・病人などを介抱し世話をすること」を言います。
病人の介護は、一般的には「病気が回復するまで」という期限尽きの介護であり、そこには、「健康な状態に回復させる」という明確で前向きな目標があります。介護の終了は、「人間の回復力」を前提としています。
一方で高齢者の介護は、一部の例外を除けば、「回復」という概念はありません。老齢による人間の機能の劣化は自然現象であり、「回復しない」ことを前提としています。介護の終了は、「人間の死」を前提としています。
高齢者介護に関するコンテンツでは、主語のほとんどは「介護人」(主に高齢者の子ども)となり、「介護の負担軽減」とか「介護サービスの活用」などのフレーズが頻用されます。
一方、被介護人(高齢者)側を主語としたフレーズの中に、"健康"とか"回復"とかという単語は全く登場しません(私が調べた限り絶無でした)。
つまりここで確認しておきたいことは、介護には「介護人の回復時に完了するもの」と「介護人の死亡時に完了するもの」の2種類があり、高齢者介護は後者であるということです。今回のコラムでは、この「高齢者介護」について考えていきます。
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