高齢者介護 〜医療の進歩の代償なのか:世界を「数字」で回してみよう(51) 働き方改革(10)(3/10 ページ)
今回から数回にわたり、働き方改革における介護を取り上げます。突然発生し、継続し、解決もせず、被介護者の死をもってのみしか、完了しない高齢者介護。まずは、私自身の体験に基づく、高齢者介護の実態について語ります。
なぜ高齢者介護が必要になるのか
高齢者介護は、なぜ必要になるのか――。高齢者になると体の機能が劣化して、劣化する前と同じ状態の生活が送れなくなるからであり、それを回避するために、その劣化分を自分以外の第三者にサポートしてもらう必要があるから ―― とまあ、これは当たり前のことです。
私がまず調べたのは、「人間以外に高齢者介護を行う生物はいるのだろうか?」「もし、いないとすれば人間だけが高齢者介護を行うのはなぜであろうか?」 という ―― プリミティブな(そして中二病的な)疑問でした。
しかし、いくら文献を調べてみても、高齢者介護を行う生物は人間以外には存在せず、高齢者介護は、「実施がデフォルト」となっています。「高齢者介護の意義/意味/メリット」について言及しているコンテンツは見つけられませんでした。
この理由について、私は、2つの仮説を持っています。
第一の仮説は、「私たちは変化したくないから」です。
私たちの体の機能が劣化しても、私たちは、自分の生活をできるだけ同じ状態や環境で生き続けたい、そして、できれば「死」という最大級の変化は、自分の目には見えないほど遠い未来に設定したい、と考えているからです。
第二の仮説は、「私たちは考えたくないから」です。
仮に「高齢者介護に意義があるのか」というテーゼが議論される社会をイメージしてみましょう。そのような社会では「介護される高齢者の価値」という、「人間の優劣」の議論を避けて通ることができません。
そして、皆、この問題の答えを、言葉にできないレベルでは知っていますが、言葉にすることはできません。なぜなら、私たちは、誰もが皆、その「高齢者」になることから逃げられない運命にあるからです(後述します)。
加えて、上記の「私たちは変化したくないから」も成立しなくなります。つまり『この議論は突き詰めて考えると、どうも自分自身の不利益になりそうだ』という直感を誰もが持っているため、誰もこれを考えないようにしているのです。
ちなみに、「人間に優劣がある」という考えは、かつて存在し、今も存在しています(「優生学」を出すまでもなく、ネットに書き込まれる、性差による差別や、我が国の近隣国の国民に対するヘイトメッセージなど)。
しかし、この件について手を突っ込むのは、ぶっちゃけ面倒なことになりそうなので、私は、このアプローチからの検討は行いません。
今回のコラムで私が検討する仮説は、「高齢者介護問題(以下「介護問題」)は、人類古来の問題ではなく、1945年(太平洋戦争)後に、突然発生した」です。
今回は、この仮説を私なりに検証してみましたので、報告致します。
下記の図は、我が国で、「1年間で、何歳の人が何人死んでいるか」をグラフにしたものです。
このグラフを見てみると、60歳過ぎからいきなり死亡者数が増えているように思えますが、これは、いわゆるベビーブーマ世代に相当するため、相対的に死亡者人口が高くなっているだけです。
これを、対人口比で表した「年齢別死亡率」グラフで現わすと次のようになります。
「年齢別死亡率」とは、簡単に言うと、「あなたが、来年の誕生日を迎えられない確率」、または「あなたが今年中に死んでしまう確率」、と言い換えることができます。例えば、90歳の人が91歳になる前に死んでしまう確率は、男性で21%、女性で15%ということになります。
少し話は逸れますが、平均寿命を、「各年齢の人口の総和/人口の総和」と思っている人は多いと思います(実は、私もそう思っていました)が、正確には「0歳での平均余命(の期待値)」のことを言います(参考)。
今年の年齢別死亡率が、来年も再来年もずっと同じということは、現実にはありえませんが、「今年の年齢別死亡率があと120年間くらい、ピクリとも動かないと仮定した場合、今年0歳の子どもの平均余命は?」というシミュレーションをした結果が、平均寿命なんです(「Excel」を使って計算できます)。
つまり、平均寿命とは、その年(今年なら2018年)の年齢別死亡率(120歳分なら「120個の数字」)を纏めて「1つの数字」として算出しただけの値であって、私たちの一人一人があと何年生き延びるか、という質問には、全く応えることのできない数字なのです(例えば、平均寿命83歳の場合、90歳の人が「既に死んでいる」ということにはなりません)。
ちなみに、このグラフを作っている時に気がついたのですが、平均寿命に相当する年代の死亡率は、"ざっくり7%程度"となるようです。これは、後から登場してくるので覚えておいてください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.