日本の製造業が「モノ」から「コト」へ移行するための必要条件:大山聡の業界スコープ(8)(3/3 ページ)
このところの半導体/エレクトロニクスをけん引しているのは、クラウドである。そして、そのクラウドの普及をけん引しているのは、消費者のニーズが「モノ」から「コト」へと移り変わったことにある。そうした中で、モノづくりを得意としてきた日本の製造業は、「コトづくり」に移行できるのだろうか。
トップダウンで行わない限り、例外なく失敗する
ここまでは多くの方々にご賛同いただけると思うのだが、サービスメニューをどのように事業化するのか、が問題である。ハードを売ることを主体にしてきた事業では、サービスはあくまでも付属品に過ぎない。サービスを主体に事業を組み立てるとなると、料金体系をどうするか、ハードをどう扱うのか、他社とハードとの差別化にこだわるのか否か、いろいろな課題にぶつかってしまう。そして多くの場合、このような面倒な議論は積極的に行われず、日々の業務に追われながらないがしろにされるのが関の山ではないだろうか。
このような根本的な経営戦略に関わる問題は、トップダウンで行わない限り例外なく失敗に終わる。経営トップがこの問題意識を持たない限り実行は不可能なのだ。
重要なのは、自社内にどのような経営資源があるか、という再確認から始めることである。特に人材、特許、ノウハウ、といった組織特有の資産を再評価することで、自社の強みとは何か、顧客から高く評価されていることは何か、どんな技術やノウハウにこだわりを持つべきか、という非常に基本的な議論を重ねることで、トップから現場まで共通の認識を持たせることが重要だろう。これがすでに徹底できている企業は、トップに取材しても現場に取材しても同様の回答が得られる、というのが筆者の取材経験上の感覚である。このような企業は、事業をハードウェア主体からサービス主体に切り替える場合でも、必要以上の混乱を招かないと思われる。
しかし残念ながら、このような社内の共通認識が取れていない企業は、トップの理想論と現場の実態のギャップが埋まらず、「ハードからサービスへ」みたいな議論が具体化するとは思えないのである。そもそもこのような議論自体が行われないのではないかと心配されるのも、こうした企業に対してである。
IoTの普及を例に挙げるまでもなく、時代のニーズは「モノ」から「コト」へと移行している。この流れを無視したまま経営戦略を立てることは困難であり、特にモノづくりに注力してきた製造企業にとって今がまさに大きな変化点に差し掛かっている。製造企業の各社は、その認識を強く持ってもらい、社内の議論を積極的に行う必要があるだろう。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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