ロームがオーディオ向けブランドを始動、音質の秘訣は:前工程から後工程まで光るこだわり(2/2 ページ)
ロームはオーディオ機器向けデバイス事業の推進に意欲を高めている。同社のオーディオIC製品ラインアップの中でも最高峰モデルとなる数種に、新ブランド「ROHM Musical Device『MUS-IC』」を冠し、オーディオ機器メーカーやエンドユーザーに対して技術力を訴求する。
新製品のDAC「BD34301EKV」の概要
続いて、LSI本部 オーディオ・インフォテインメントLSI商品開発部 オーディオ開発課の佐藤陽亮氏が新製品のDAC「BD34301EKV」について、機能や音質設計手法について説明を行った。
マルチビット出力型のΔΣ変調方式を採用した同チップは、PCMでは最大サンプリング周波数768kHz/量子化ビット数32ビット、DSDでは最大22.4MHzのネイティブ再生に対応する。昨今のハイエンドオーディオ機器のトレンドを考慮し、電流出力モードはステレオとモノラルの切り替えに対応。FIRフィルターはプリセットとプログラマブル機能を有し、「プログラマブル機能により任意のFIR係数を設定できる。ユーザー独自の音作りを重視した」(佐藤氏)とする。
数値性能として、THD+Nが115dB、SNRが131.6db(いずれも差動測定の結果)。佐藤氏は「数値性能としては業界トップクラスを達成できたが、まだ追求すべきところはあると考えている」と語った。
ボンディングワイヤの材質やウエハープロセスで音質が変わる!?
BD34301EKVの音質設計では、垂直統合生産の中で音質に影響する28パラメーターをチューニングした。回路設計に12パラメーター、レイアウト・フォトマスク製造に6パラメーター、ウエハープロセスに6パラメーター、内製リードフレームに1パラメーター、パッケージングに3パラメーターがあり、これらを「一つ一つ突き詰めていった」(佐藤氏)とするが、今回の発表では4種の設計手法を明らかにした。
まず、豊かな低音を実現するため、回路設計において電源ラインの共通インピーダンス低減を実施。「アナログ部の電源ラインに共通インピーダンスがついてしまうと、電流セグメントのマッチングがずれてしまう。これにより直線性が失われるなどの悪影響がある」(佐藤氏)とし、対策を行うことで低音の迫力や奥行き、高域のバランスが改善したとする。
また、回路設計面では電流セグメントのクロック性能改善にも配慮している。密度の高い空間表現を実現するため、電流セグメントに供給するクロック波形の立ち上がりを急峻化し、さらにクロックタイミングの均一化を図った。佐藤氏は「臨場感や解像度の改善や低音の量感が向上する効果を得られた」と語る。
ボンディングワイヤの材質も音質設計パラメーターの一つとなる。ボーカルや楽器の輪郭、音の表現力向上を目指し、複数の材料による音質比較を実施。その結果、「DACでは金ワイヤを用いた方がボーカルの余韻が自然であり、楽器の音色に繊細さを感じた」(佐藤氏)として、金をボンディングワイヤの材料として選定した。
ウエハープロセスやパッケージングによってチップに発生する応力は電流セグメントのマッチングを崩すことがあり、音質に悪影響を及ぼすという。色付けのない自然なサウンド実現のため、「28の音質パラメーターの中で応力緩和に有効なものが特定できているので、これらを適用することでチップにかかる応力を最小化した」(佐藤氏)とする。また、応力による左右のチャンネルの影響を同一とするため、電流セグメントを完全な左右対称レイアウトとしている。
これらの改善により、「電流セグメントのマッチング精度が向上したため、音の癖が減少し自然に聴こえるようになった」(佐藤氏)
「このDACは約2年前から開発を始めており、顧客に何度も足を運んで指導を受けてきた」と語る佐藤氏。説明会では試聴デモに多くの時間が割かれ、チップの音質に対する自信が垣間見えた。同社はオーディオ機器向けDAC市場で30%のシェア獲得を狙うとしている。
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