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変わり始めた日本のベンチャー、グローバル展開は射程にイノベーションは日本を救うのか(29)(2/2 ページ)

1980〜1990年代の日本では、“ベンチャー企業”とは、町の発明家に毛の生えた程度のもので、本格的なビジネス展開は難しいというのが実情だった。だがそれから数十年を経て、日本のベンチャー企業は変わりつつある。

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“自分用のツール”を製品化したVALUENEX

 現在、AZCAは4社ほど、インキュベートしている。そのうちの1社が前述したマグネデザインだ。そしてもう1社が、VALUENEX(バリューネックス)である。独自の解析アルゴリズムにより、最大10万件という大量の文書情報を、短時間で二次元に可視化するサービスを手掛けている。例えば、「TechRadar」という同社のサービスは、技術や業界の特許情報の俯瞰解析をすることで、まだ特許が出願されていない”技術の空白領域”を探索することができる。これを、技術・製品開発戦略の策定に活用できるわけだ。

 VALUENEXの創設者である中村達生氏は、もともとは三菱総合研究所に勤務していた人物だ。顧客のニーズを満たすべく、自分が使うツールを開発し、その技術を元に「創知(Soti:そうち)」というベンチャー企業を興した。それがVALUENEXの前身である。Sotiはウエルインベストメントの投資を受け、2009年ごろには米国に進出するも、その時はうまくいかずに撤退している。

 中村氏が開発したツールは、もともと自分用だったから、素晴らしい解析エンジンを内蔵したツールではあったが、”製品”として他人に使ってもらえるようなものではなかった。当然マニュアルもなく、UX/UIを改良しなければ誰も使おうとは思わないだろう。さらに、「Soti」(外国人だと「ソーティ」と発音してしまう)という社名も読みにくかった。

 同社は2013年にシリコンバレー上陸に再度挑戦し、筆者がそのアドバイザーとして事業成長の支援を始めた。そこでまずは社名を「VALUENEX」に変更し、そこから約3年をかけて、ツールのUX/UIを作り直していった。洋の東西を問わず、特許のマッピングは非常に役に立つ技術だ。つまり、中村氏が開発したツールは素質のある技術ではあった。残る課題はUX/UIだけだったのである。徹底的な作り直しを経て、ようやく”製品”と呼べるツールになってきたのは約2年前だった。

 その後VALUENEXは、法律事務所と一緒にセミナーをやったり、知財関連のカンファレンスに登壇したりと、事業展開への取り組みを活発に進めてきており、現在は上場を目指している。ちなみに中村氏は、今後のグローバル展開として、シリコンバレーに進出した後は、南仏の学術都市ソフィア・アンティポリスに研究所を設立したいという目標を持っているそうだ。


VALUENEXの中村達生氏(左)と筆者。シリコンバレーにあるAZCAのオフィスにて撮影。後ろのディスプレイに映っているのが、「TechRadar」である

 VALUENEXは順調にビジネスを続けていて、例えばTechRadarは、Hondaグループの世界中の本田技研研究所などで採用されている。2017年4月には、三菱UFJモルガン・スタンレー証券と業務提携したと発表した。

 なお、VALUENEXは、2014年に米国にVALUENEX Inc.という別会社を作っている。IP(Intellectual Property)を日本の本社からアサインし、米国からも資金調達することを狙ったのだ。ただし、日本での上場を目指す関係で、VALUENEX Inc.は現在、日本のVALUENEXの100%子会社となっている。

育ちつつある日本のベンチャー企業

 日本からも、このようなグローバルで十分に戦っていける素質を持った企業が出ているということを、ぜひ知っていただきたいと思う。シリコンバレーは先端的な企業が多く、いいものであれば、どこの国の技術・製品だろうと積極的に使いたいという機運がある。ベンチャー企業でも、技術以外のところもきちんと整えれば、グローバル展開も決して夢物語ではないのだ。

 ここで紹介したマグネデザインやVALUENEXや、筆者がアドバイザーを務め、将来グローバル展開しようとしているオスカーテクノロジー(関連記事:マルチコアCPUの“真価”を引き出す自動並列化ソフト)のような大学発ベンチャーなども含め、質のよい技術を持った日本のベンチャー企業が登場しているのは、頼もしい限りだ。

 日本発のベンチャー企業を取り巻く環境は、数十年前とは明らかに変わった。この上昇気流に乗って、日本のベンチャー企業にはためらうことなく世界に進出し、大いに活躍してほしいものである。


「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー


Profile

石井正純(いしい まさずみ)

日本IBM、McKinsey & Companyを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーに経営コンサルティング会AZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。ハイテク分野での日米企業の新規事業開拓支援やグローバル人材の育成を行っている。

AZCA, Inc.を主宰する一方、1987年よりベンチャーキャピタリストとしても活動。現在は特に日本企業の新事業創出のためのコーポレート・ベンチャーキャピタル設立と運営の支援に力を入れている。

2005年より静岡大学大学院客員教授。2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年より2012年までXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所(2007年会頭)、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。

2016年まで米国 ホワイトハウスでの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易協定・振興から気候変動などのさまざまな分野で、米国政策立案に向けた、民間からの意見および提言を積極的に行う。新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。


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