可視光域で高効率、世界初の窒化タンタル光触媒を実現:NEDOらが開発
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は2018年9月4日、東京大学、信州大学とともに世界初(同機構調べ)となる単結晶窒化タンタル(Ta▽▽3▽▽N▽▽5▽▽)光触媒の開発に成功したと発表した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は2018年9月4日、東京大学、信州大学とともに世界初(同機構調べ)となる単結晶窒化タンタル(Ta3N5)光触媒の開発に成功したと発表した。
窒化タンタルは、次世代の光触媒材料として2000年頃から有望視されていたが、従来手法では合成が困難だった。今回、同機構らは窒化タンタルを用いて実際に光触媒を製造することに成功。この光触媒による水分解を確認した。
可視光域で水を分解できる窒化タンタル、安価なプロセスの実現に期待
NEDOは、太陽光エネルギーと水、工場などから排出された二酸化炭素を合成して、プラスチック原料などの基幹化学品の製造プロセスを実現するための技術開発に取り組んでいる。
同機構らは2018年8月、Cu(In1-x、Gax)Se2(通称:CIGS)をベースとした水素生成光触媒を開発。非単結晶光触媒として世界最高(同機構調べ)となる最大12.5%の水素生成エネルギー変換効率を達成した。また、従来の酸素生成光触媒(BiVO4)を組み合わせた2段型セルによる水の全分解反応を調査し、太陽光エネルギー変換効率は3.7%を記録した(関連記事:人工光合成の実現に道、世界最高の水素変換効率を達成)。
また今回、同機構らは可視光領域の400nm〜600nmを吸収して水を分解する単結晶窒化タンタル微粒子光触媒の開発に成功した。600nm近辺は太陽光で最も強度が高い波長域のため、効率的なエネルギー活用が期待できるという。
従来では、原料の酸化物をアンモニア気流中で長時間加熱する窒化タンタルの合成手法を用いており、良質な窒化物微粒子の合成が困難だった。そこで、同機構らは既存の窒化物合成手法とは異なる原料の選定と合成条件の研究を進めてきた。
今回、複合酸化物(タンタル酸カリウム、KTaO3)微粒子を従来手法比で10分の1以下の時間で窒化させ、複合酸化物微粒子上に単結晶の窒化タンタル微粒子を直接形成した。これにより、安価なプロセスの実現が期待できるとする。また、水素生成反応を促進する助触媒を担持させることで、窒化物微粒子が高品位化し光励起された電子と正孔を水分解反応に有効利用することが可能となった。
今後、同機構らは窒化タンタル光触媒の合成手法の改良や、酸窒化物や酸硫化物などの材料への展開を通じて水分解用微粒子光触媒の機能改良を進め、人工光合成プロセスの実現に向けた研究開発を継続するという。
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