896Gbpsの伝送帯域を実現する超高速光送受信モジュール(前編):福田昭のデバイス通信(162) imecが語る最新のシリコンフォトニクス技術(22)
今回は、16チャンネルの光送受信モジュール(光トランシーバー)の試作例を紹介する。試作した光トランシーバーは、1チャンネル当たり56Gbpsの速度で光信号を変調する。つまり、16チャンネルの合計では、896Gbpsの帯域幅を実現できることになる。
16チャンネルの超高速光送受信モジュールを試作
半導体デバイス技術に関する国際会議「IEDM」では、カンファレンスの前々日に「チュートリアル(Tutorial)」と呼ぶ技術セミナーを開催している。2017年12月に開催されたIEDMでは、6件のチュートリアルが開催された。
その中から、シリコンフォトニクスに関する講座「Silicon Photonics for Next-Generation Optical Interconnects(次世代光接続に向けたシリコンフォトニクス)」が興味深かったので、その概要をシリーズでお届けしている。講演者は、ベルギーの研究開発機関imecのJoris Van Campenhout氏である。
なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。
前回は、シリコンフォトニクス技術による超高速光送受信器(光送受信モジュール)の構成例をご紹介した。具体的には、4チャンネルの光送受信モジュールと8チャンネルの光送受信モジュールの構造と仕組みを説明した。今回はさらに速度を高めた、16チャンネルの光送受信モジュールの試作例を前後編で解説する。
試作した光送受信モジュール(光トランシーバー)は、1チャンネル当たり56Gビット/秒(bps)の速度で光信号を変調する。16チャンネルの合計では、896Gbpsと極めて広い帯域幅を実現可能だ。
送信回路と受信回路、光ファイバー結合器を1個のシリコンダイに集積
光送受信器(光トランシーバー)は、光源である半導体レーザー(単体あるいはアレイ)とやシリコン光導波路、シリコン光変調器、光変調用シリコンCMOS回路チップ、光受信器(フォトダイオード)、光ファイバー(単体あるいはアレイ)などで構成される。
試作したシリコンフォトニクスの超高速光トランシーバーは、送信回路と受信回路を1つのシリコンダイに形成した。送信回路には、16個のゲルマニウムシリコン(GeSi)電界吸収型光変調器(EA光変調器)を100μmピッチで作り込んでいる。受信回路には、16個のGeSiヘテロ接合フォトダイオードをこれも100μmピッチで作り込んだ。光変調器とフォトダイオードの寸法はいずれも約100μm(直線状のシリコン光導波路と平行な方向)×約50μmである。
シリコンフォトニクス技術で試作した、16チャンネルの光トランシーバー。上の写真は、光トランシーバーのシリコンダイを顕微鏡で観察した画像。シリコンダイの寸法は縦0.7mm×横3mm。16個の光変調器(上側)と16個の光検出器(下側)を作り込んでいる。1個の光変調器は、56Gbpsの速度で光信号を変調する。シリコンダイの左端は、光ファイバアレイとシリコン光導波路を結合する回折格子(グレーティング)のアレイである。37個の回折格子が形成されている。出典:imec(クリックで拡大)
送信回路には、1個の光ビームを2個の光ビームに分割する、MMI(Multimode Interference)スプリッターをツリー状にレイアウトしてある。このMMIスプリッターのアレイによって1本の光ビームを16本の光ビームに分割し、光変調器のアレイへと伝送する。
光源である半導体レーザーは、光トランシーバーとは離してレイアウトする。半導体レーザーの光ビームはまず光ファイバーに入る。光ファイバーを通った光ビームは、光トランシーバーの回折格子型結合器を通じて光導波路に入り、MMIスプリッターへと至る。
送信回路で光変調された16チャンネルの光ビームは、チャンネルごとに回折格子型結合器を通じて光ファイバーに送られる。光ファイバーによって伝送された光ビームは、別の光トランシーバーに至る。そして回折格子型結合器のアレイを通じてチャンネルごとに光導波路に送られる。それから、光検出器(GeSiフォトダイオード)によって電気信号へと変換される。
(後編に続く)
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