NXP買収を断念したQualcommの誤算(後編):業界は何を恐れたのか(2/2 ページ)
NXP Semiconductorsの買収を断念せざるを得なかったQualcomm。ただしQualcommは、自社が置かれている状況から、このM&Aが厳しくなることをもう少し予想すべきだったのではないだろうか。
Qualcomm/NXPの合併の何を恐れていたのか
皮肉なことに、Qualcommは最近、証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)に提出した年次報告の中で、ライバル企業や顧客企業たちが、QualcommとNXPの合併に関して何を最も恐れていたのかについて、自ら詳細を述べている。Qualcommは、「将来的に成長を達成できるかどうかは、われわれの技術や製品、サービスを、RFフロントエンドなどのさまざまな新しい製品分野の他、特に自動車やIoT(モノのインターネット)、ネットワーキングなどの、既存の携帯電話業界以外の隣接産業分野へと拡大していく能力によって決まる」と説明している。
QualcommとNXPは、共同で発表した合併買収に関する声明の中で、ビジョンに関する詳細を述べている。NXPのCEOであるRick Clemmer氏は、次のように語っていた。
「QualcommとNXPの合併により、さらなるスマート化に向けたセキュアな接続を実現するというわれわれのビジョンに必要な、あらゆる技術を統合できる。これによって、最先端のコンピューティングやユビキタス接続を、セキュリティや、マイクロコントローラなどの高性能ミックスドシグナルソリューションと組み合わせることが可能になる。両社が協業することで、さらに完成度の高いソリューションを提供できるようになるだろう。特に、自動車やコンシューマー、産業用IoT、デバイスレベルのセキュリティなどの分野において、リーダー的地位をさらに強化し、幅広い顧客基盤との間で既に構築している強固な協業関係を、さらに拡大していくことが可能になる」
このようなビジョンは、Qualcommに既にロイヤルティーを支払っている企業にとって、恐怖だったに違いない。こうした企業の多くは、コネクテッドデバイス市場でのチャンスを模索していたからだ。これらの企業が規制当局に対し、Qualcommに合併買収に関して譲歩を求めるよう迫ったとしても、決して驚くようなことではない。米国企業であるQualcommとオランダのNXPの合併を歓迎するはずのEUでさえ、両社に対して厳しい条件を提示し、準拠を求めている。実際、EUによる合併の承認は何カ月間もかかっており、その背景にあったであろう懸念として以下が挙げられる。
- 合併後の新会社が、ライセンスのロイヤルティーを値上げしたり、NXPの非接触ICカード通信規格MIFARE(マイフェア)のライセンス供与を完全に中止したりするとなれば、他のサプライヤー各社がNXPのMIFARE技術にアクセスすることが難しくなると考えられた
- 合併後の新会社は、QualcommのベースバンドチップセットおよびNXPのNFCチップやSE(Secutiry Element)と、ライバル製品との相互運用性を低下させることも可能になる。これによってスマートフォンメーカーが、ライバル企業の製品よりも合併後の新会社の製品を好むようになれば、ライバル企業が市場から排除される可能性もあった
- 合併後の新会社は、両社のNFC技術関連の重要なIPポートフォリオを統合することになる。そうなれば、新会社の交渉力が高まり、競合他社よりも大幅に高いロイヤルティーでNFCの特許をライセンスする可能性が考えられた
Qualcommのライセンス料は高額とされ、これをめぐりさまざまな企業とのあつれきが発生していた。QualcommがNXP買収の手続きを開始してから数カ月後、Qualcommの一部の顧客はロイヤルティーの支払いを減少したり、停止したりした。こうした対応にQualcommは長い間苦慮している。2017年9月24日を末日とする会計年度の売上高は、2016年会計年度の236億米ドルから223億米ドルに減少した。ライセンス料の売上高も、2016年度の81億米ドルから、2017年度の56億米ドルに30%減少している。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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