AppleとIntelの蜜月はいつまで続く?:PC時代からのパートナーシップ
Steve Jobs氏の時代から始まったAppleとIntelの良好なパートナーシップ。両社ともPCからモバイル分野へと事業を広げる中、AppleとIntelは現在はどのような関係性なのだろうか。
技術コンサルティング企業であるCreative StrategiesのプレジデントでベテランのAppleウォッチャーであるTim Bajarin氏は、「Appleのサプライヤーが得た教訓があるとすれば、Appleはリスク因子であるということだ。Appleはエコシステムのあらゆる要素を可能な限り独自開発することを目指しているからだ。設計を加速し収益性を高めるために、最終的にはサプライチェーン全体をコントロールしたいと考えている」と述べている。
IntelとAppleのパートナーシップは2006年に始まった。AppleのSteve Jobs氏は、2006年に開催したイベントのサプライズゲストとしてIntelのCEO(最高経営責任者)だったPaul Otellini氏を招き、「Macintosh」コンピュータのCPUをPowerPCからx86に移行すると発表した。Appleの事業はPC市場におけるIntelの支配的地位に大きな影響を及ぼすことはなかったが、Appleにとっては大きな扉が開かれることになった。
米国の市場調査会社であるInsight 64の主席アナリストでベテランのIntelウォッチャーであるNathan Brookwood氏は、「PowerPCのサプライヤーは、AppleがノートPCへの要件として出したワット数当たりの性能に対応しようとしなかった。これに対し、Intelの低消費電力『Core』プロセッサは、Appleが同社のランドマーク製品となる『MacBook Air』のような薄くて軽いノートPCを実現するために必要な性能を備えていた。Intelは、この設計を実現するために何度も基本設計を行ったという」と述べている。
CoreチップはWindows PCに使われていたことから、これを機に企業ユーザーにもAppleのコンピュータが使われるようになった。Brookwood氏は、IntelベースのMacが登場した当時を振り返って、「私はすぐに『Boot Camp』とWindows用ツールをインストールした。その1年後は、Apple版のOfficeに満足していた」と語った。
Otellini氏は後に、Jobs氏がIntelに対し、当時はまだ設計の初期段階だった「iPhone」向けプロセッサの製造を依頼したことを明らかにしたが、この契約は成立しなかった。2007年に発売されたiPhone初号機にはSamsung Electronicsのアプリケーションプロセッサが搭載されていたが、「iPhone 4」にはApple独自のSoC(System on Chip)である「Aシリーズ」が搭載された。
その後Aシリーズは10世代近いリリースを経て、関係筋の多くは、「現在iPhoneと『iPad』に搭載されているAシリーズが、ゆくゆくはMacBookのx86に置き換わるだろう」と予想している。Bajarin氏は、「すぐにではないが、必ずそうなると確信している」と述べている。
Intelはx86とArmの両アーキテクチャのプロセッサを手掛けてきたにもかかわらず、2016年まではスマートフォンの波に完全に乗り遅れていた。2010年に14億米ドルで買収したInfineon Technologiesのワイヤレス事業がIntelを窮地から救った。
2016年後半にAppleとQualcommが特許侵害をめぐって争う中、Qualcomm製とIntel(Infineonから買収した部門)製、いずれかのベースバンドチップを搭載する形で「iPhone 7」が登場した。米連邦取引委員会(FTC)とAppleはそれぞれ2017年1月に、不公正な取引を行っているとしてQualcommを提訴している。「Appleは、iPhoneのモデムチップからQualcomm製が外れると予想される」と広く報道されたが、実際は「iPhone X」でもベースバンドチップはQualcomm製とIntel製の2つが採用されていた。
Appleが5G対応チップを設計する可能性は低い?
2019年に発表されるであろうiPhoneでは、少なくとも初期のロットには、Intelの5G(第5世代移動通信)対応プロセッサが採用されるとの見方が強い。だがそれ以降は不透明だ。
Bajarin氏によれば、AppleはQualcommとの関係を修復する可能性もあるという。5G対応ベースバンドチップとRFフロントエンドを入手するためだ。5G対応チップに関しては、技術的な課題と特許の関連から、Appleが独自にチップを設計する可能性は低いとみられている。
「今後2年間はIntel対Qualcommの構図になるだろう。ただし、個人的にはQualcommに分がある」とBajarin氏は付け加えた。「ただし、Intelの売上高の大半がデータセンター事業から得られている今、Intelがモデムチップ事業にどれだけ注力するのかというのは疑問だ。Intelの次期CEOは、モデム事業をIntelの中核の一つだとみなさない可能性もある」(Bajarin氏)
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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