ペロブスカイト太陽電池、スズ系で変換効率7%以上に:再現性良く高品質の成膜法を開発
京都大学と大阪大学の研究グループは、高品質で再現性に優れるスズ系ペロブスカイト半導体膜の成膜法を開発した。光電変換効率が7%を上回るペロブスカイト太陽電池の作製が可能となる。
簡便なHAT法とSVA法を組み合わせ
京都大学と大阪大学の研究グループは2018年9月、再現性に優れ高い品質のスズ系ペロブスカイト半導体膜の成膜法を開発したと発表した。この技術を用いると、光電変換効率が7%を上回るペロブスカイト太陽電池を作製することが可能になるという。
今回の研究は、京都大学化学研究所の若宮淳志教授、ジェイウェイ・リウ同博士研究員、尾崎雅司工学研究科博士課程学生、薬丸信也同修士課程学生、金光義彦化学研究所教授、村田靖次郎同教授、リチャード・マーディ同助教および、大阪大学大学院工学研究科の佐伯昭紀准教授らが行った。
光吸収層にペロブスカイト半導体材料を用いたペロブスカイト太陽電池が注目されている。光電変換効率が20%と高いためだ。一方で原料に鉛が含まれていることから、実用化に向けては環境や健康の問題などが指摘されてきた。このため、鉛を用いないスズ系ペロブスカイト太陽電池の開発が期待されている。ところが、スズイオンが酸化されやすいなど、性能面や再現性で課題もあった。
そこで研究グループは、「高純度化前駆体材料の開発」と「独自の成膜手法の開発」をテーマに、スズ系ペロブスカイト太陽電池の開発に取り組んでいる。今回は、スズ系ペロブスカイト半導体膜の作製手法に関する研究成果である。
実験ではまず、高い光電変換効率が得られるといわれている方法で太陽電池を作製した。ところが、試作したペロブスカイト半導体膜を電子顕微鏡で観察したら、表面被覆率が悪い膜しか得られず、光電変換効率は0〜3%と極めて低い値となった。
そこで研究グループは、半導体膜が生成される過程を分析した。この結果、2つの重要なメカニズムを突き止めた。1つはスズ系ペロブスカイト半導体の場合、基板上に塗布した材料を含む溶液に対し、材料が溶けにくい溶媒(貧溶媒、アンチソルベント)を、高速に回転させた基板へ滴下すると、中間体を経由せずに半導体材料の結晶核がすぐに生成されることである。もう1つは、得られた膜をゆっくりと加熱すると、それぞれの結晶核が成長して約120nmの薄い半導体膜が作製できることが分かった。
そこで研究グループは、より多くのペロブスカイト材料の結晶核が一気に析出するよう、滴下する貧溶媒に温めたクロロベンゼンを用いるホットアンチソルベントトリートメント(HAT:Hot Antisolvent Treatment)法を用いて試作した。そして、膜の均一性が優れるのは、貧溶媒の温度が65℃の時であることを突き止めた。
膜をゆっくり加熱する方法としては、ソルベントベイパーアニーリング(SVA:Solvent Vapor Annealing)法を用いた。ホットプレート上で加熱して、残った溶媒を飛ばす手法である。この時、最初の10〜30秒間だけペトリ皿などで蓋をしながらガラス基板を加熱し、溶媒の蒸気圧を制御した。この結果、より大きな結晶性の塊(グレイン)を有する均一な半導体膜を作製することに成功した。
今回の研究では、HAT法とSVA法という、2つの簡便な手法を組み合わせた。これにより、均一な高品質のペロブスカイト膜を再現性よく作製することに成功した。
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