FLOSFIA、MOSFETのノーマリーオフ動作を実証:機器形状数十分の一、コスト半減
京都大学発のベンチャー企業が、コランダム構造の酸化ガリウムを用いて、ノーマリーオフ型MOSFET(絶縁効果型トランジスター)の動作実証に成功した。
コランダム構造の酸化ガリウムを採用
京都大学発のベンチャー企業であるFLOSFIA(フロスフィア)は2018年8月、コランダム構造の酸化ガリウム(Ga2O3)を用いて、ノーマリーオフ型MOSFET(絶縁効果型トランジスター)の動作実証に成功したと発表した。
パワー半導体は、変換効率の改善に向けて新たな材料やプロセスの開発が進められている。今回採用したコランダム構造(α構造)のGa2O3もその1つである。最も物性値が良いとされる構造だが、単結晶薄膜を作製するのが極めて難しいといわれてきた。こうした中で京都大学は2008年、サファイア基板上に単結晶製膜を初めて作製し、注目を集めた。
2015年にはFLOSFIAが、オン抵抗0.1mΩcm2のショットキーバリアダイオード(SBD)を試作しサンプル出荷を始めた。その後も、コランダム構造のGa2O3を用いたMOSFETの開発に取り組み、コランダム構造のp型半導体「酸化イリジウム」を発見するなど、成果を上げてきた。
そして今回、試作したMOSFETでノーマリーオフ動作の実証に成功した。ゲート電圧(Vgs)が0Vのときは電流が流れず、電圧を上げると電流が流れだすことを確認した。測定した電流−電圧特性値から予想されるゲートしきい値電圧は7.9Vであった。
試作したデバイスは、サファイア基板上にp型ウェル層としてコランダム構造の新規p型半導体を、n型ソース層にコランダム構造のGa2O3を積層した構造である。これ以外に、ゲート絶縁膜や電極などを形成した。研究グループは、新規p型半導体を用いた反転層チャネルによって、ノーマリーオフ動作を実現可能にしたとみている。
FLOSFIAは今後、動作確認したノーマリーオフ型MOSFETを「GaO」シリーズとして量産する予定である。新製品はACアダプターなどの商用電源、ロボットの駆動回路、EVやHEV、エアコンなどの白物家電、太陽電池のパワーコンディショナーといった用途に向ける。同社の試算によれば、電力変換器の形状を最大数十分の一に小型化したり、電力変換器の全コストを半減したりすることが可能になるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- デンソーとFLOSFIA、酸化ガリウムパワー半導体の開発で協業
デンソーとFLOSFIAは、酸化ガリウムパワー半導体の開発で協業すると発表した。車載応用に向け開発を進める。 - 量産間近、酸化ガリウムパワーデバイス
FLOSFIAは「CEATEC JAPAN 2017」で、酸化ガリウムSBD(ショットキーバリアダイオード)を展示している。2018年に、まずは月産30万個の規模で量産を始める予定だ。 - 基材や形状を選ばない非真空ドライめっき技術
ベンチャー企業のFLOSFIAは、京都大学が開発した薄膜形成技術「ミストCVD法」を発展させ、基材の種類や形状に関係なく金属薄膜を成膜できる非真空ドライめっき技術「ミストドライ めっき法」を開発した。10μm以下の表面形状にも成膜可能で、半導体素子などの電極への応用が見込まれる。 - パワー半導体市場、2030年に4兆6000億円台へ
富士経済は、2030年までのパワー半導体市場を予測した。SiC(炭化ケイ素)/GaN(窒化ガリウム)パワー半導体は、情報通信機器分野を中心に引き続き需要が拡大する。これに加え今後は、エネルギー分野や自動車・電装システム分野での伸びが期待される。 - パワー半導体市場、2025年に酸化ガリウムがGaNを抜く
富士経済が、2025年における次世代パワー半導体市場の予測を発表した。SiC、GaNはともに堅調に成長する。加えて有望視されているのが酸化ガリウム系パワー半導体だ。特に中高耐圧領域での優位性が際立ち、2025年には、市場規模でGaNパワー半導体を上回るとみられる。 - パワエレで力を付ける中国、SiCで目立つ地元企業の台頭
中国・上海で、2018年6月26〜28日の3日間にわたりパワーエレクトロニクスの展示会「PCIM Asia 2018」が開催された。三菱電機の中国法人は「5〜10年前では考えられないほど市場が伸びて、プレイヤーも増えてきている」と語る。SiC(シリコンカーバイド)パワーデバイスを手掛けるメーカーも増えてきた。PCIM Asia 2018の様子をレポートする。