貿易摩擦に屈しない、中国半導体技術の“体力”:製品分解で探るアジアの新トレンド(31)(1/3 ページ)
トライ&エラーを繰り返し、着実に実績をつけている中国の半導体技術。こうした実績はやがて、貿易摩擦などの圧力に屈せず、自国の半導体で多様な機器を作ることができる“体力”へとつながっていくのではないだろうか。
新しい分野で進む中国半導体の採用
米中貿易摩擦が過熱し、お互いの電子部品の往来にブレーキがかかる可能性が高い中でも、中国では続々と中国製半導体を用いた製品が生まれている。今回の問題が良き方向に進むことを願うが、一方でこうした問題は、より一層の中国半導体の進化を加速させる可能性が高いと思えてならない。
本連載を開始しておおよそ2年半。これまでの30回で、多くの中国製品の分解や半導体状況を伝えてきた。弊社の定期刊行物テカナリエレポートではさらに数倍の中国製品の輸入を行い、分解情報などを提供している。それらの多くは欧米半導体も採用しているが、徐々に中国製半導体の搭載比率が高まっていることが明確になっている。
既存分野の製品では相変わらず欧米老舗メーカーの半導体比率が高いものの、新分野と呼ばれる新しい製品、特にスマートフォン、タブレット、ドローン、監視カメラ、AI(人工知能)関連機器などでは、欧米チップと同等数の中国製半導体が採用されている。
半導体は大きく5つのカテゴリーに分類される。(1)デジタル(2)アナログ(3)メモリ(4)センサー(5)パワーである。この5つの分野ともに中国製半導体は、あらゆるジャンルで採用事例が確認できている。特にデジタルとアナログは、多くの中国製品で欧米日などの半導体以上に採用が進んでいる。上記のコンポーネントを組み合わせることで、通信や制御、情報処理が可能となり、応用分野での中国半導体事例の増加は目を見張るものがある。
メモリではSerial FlashメモリやDDR3などの中国製採用も増えている。またパワー半導体でも中国DJIのドローンのモーター駆動系は中国製半導体であるなど、5分野いずれでも中国半導体は増えることはあっても、減少の傾向はみられない。
7nmチップをスマホに載せるHUAWEI
図1は、中国VSTARCAMの通信機能付きネットワークカメラ「C7823」の外観である。内部には通信基板、映像処理基板の2枚の基板が備わり、トータルで11個の半導体チップが用いられている。11個中6個が中国半導体(残り5個は台湾4個、米国1個となっている)メインの画像処理には中国HiSiliconの「HI3518」プロセッサが採用されている。
HiSiliconは中国HUAWEI傘下の半導体メーカーである。HUAWEI向けのスマートフォンに採用されるプロセッサおよびチップセット(アナログチップ:電源系、トランシーバー、オーディオ用チップなども自社開発)を取りそろえる、Qualcommや台湾MediaTekに並ぶ高い技術力を持つメーカーだ。
今夏(2018年夏)日本でも発売された大人気のスマートフォン「HUAWEI P20」シリーズには、HiSiliconのチップがいずれのモデルにも採用されている。HiSiliconのスマートフォンには中国製のAI機能IP(Intellectual Property)も搭載されており、顔認証や画像処理、指紋認証など多くの機能にAIを組み込んでいる。2018年秋に発売になる「HUAWEI Mate 20」では、さらに強化されたAI機能や世界初の高速データ通信LTE Cat.21などが7nmチップに実装されることが発表されている。
弊社では今秋HUAWEI Mate 20を早々に入手し、分解してチップ解析を行う予定だ。HiSiliconはスマートフォン向けチップだけでなく、監視カメラ用チップにも注力する。HiSiliconのチップは多くの監視カメラに採用され、チップの種類も多い。監視カメラだけでなく、車載ドライブレコーダーやADAS(先進運転支援システム)関連機器にも多数採用されている。
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