電子部品商社の「基本姿勢」を貫き、共生の道探す:RSのプライベートブランドRS Proプレジデント
半導体メーカーや電子部品メーカーの統合だけでなく、ディストリビューター間の統合も進む中、RS Components(RSコンポーネンツ)はどのような立ち位置で、どのような戦略を展開していくのか。RS ComponentsのプライベートブランドRS Proのプレジデントを務めるKurt Colehower氏に聞いた。
「エレクトロニクス業界の統合が進み、プレイヤーが変わっていく中で、ディストリビューターに対する顧客のニーズはますます細分化し、より個別の対応も必要になってくる」――。英国のPR代理店であるPublitekが主催したプレス向けイベント(2018年9月19〜20日)で、RS Components(RSコンポーネンツ)のCentral Europe担当PR Managerを務めるFrank Behrens氏は、このように語った。半導体メーカーや電子部品メーカーの統合だけでなく、ディストリビューター間の統合も進む中、RS Componentsはどのような立ち位置で、どのような戦略を展開していくのか。RS ComponentsのプライベートブランドRS Proのプレジデントを務めるKurt Colehower氏に聞いた。
ソリューションを作り出す能力が必要に
EE Times Japan(以下、EETJ) IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などのトレンドがある中、RS Componentsに対する顧客の要望はかなり変化しているのでしょうか。
Kurt Colehower氏 まだそこまでの大きな変化はないが、まさにこれから変わってくるだろうという気配がある。例えば、アプリケーションサポートやソリューションの開発が、これまでになく高いレベルで求められるようになるのではないか。これまでディスクリートを購入し、自分たちで設計をしていたユーザーも、シングルボードコンピュータを使って開発を始めるケースも多くなっている。そのため、ディスクリート以外に、(シングルボードコンピュータのような)ソリューションのラインアップの強化が重要になると考えている。
EETJ RS Componentsの、ディストリビューターとしての役割と強みは何でしょうか。
Colehower氏 ディストリビューターとしての役割については、次の3つが大事だと考えている。サプライヤーとの良好な関係、テクノロジーに対する豊富で確かな知識、そしてソリューションを作り出す能力だ。“ソリューションを作り出す”というのは、シングルボードコンピュータと、われわれが提供する他の部品やソフトウェアを組み合わせ、より高いレベルで統合したソリューションを作り出すという意味だ。こういったソリューションは、FA(Factory Automation)などで必要とされ始めている。
われわれの強みは、IoTなどで台頭しているスタートアップ企業や中小企業に向けて、たった1個の部品から提供できる点だ。質の高いサービスを提供するには、より小規模の発注にも対応できるようにしなければならない。
ただ、われわれが顧客にヒアリングを行った際、顧客は、「最適な製品を提供すること」「必ず期限内に提供すること」「常に製品を入手可能にしておくこと」という、ディストリビューターとしては基本的なことも強く望んでいることが分かった。顧客からのニーズの変化に対応するのももちろん重要だが、ディストリビューターとしての基本姿勢は貫く必要があるということだ。どちらにしても、“部品が重要”ということは変わりない。
「DesignSpark」はプロ用にシフト
EETJ RS Componentsは無償のPCBレイアウトツール「DesignSpark」を提供していますが、こちらの戦略について教えてください。
Colehower氏 現在、DesignSparkに登録しているユーザーは、ホビイストからプロフェッショナルまで約72万人いる。これまでは、どちらかというとホビイストや教育用途に重きを置いていたが、今後はプロフェッショナル向けにシフトしていく予定だ。DesignSparkのユーザーには既にかなりの数のプロフェッショナルがいて、彼らの要望に応えるには無償では限界があるからだ。ただし、ホビイスト向けや教育向けにはもう提供しない、という意味ではなく、プロフェッショナルのエンジニア向けに有償のDesignSparkを提供していく方針だ。
かつてのライバルは、現在のパートナーに
EETJ 2018年9月は、日本国内でもディストリビューターが統合する動きが目立ちました。今後、グローバルでもディストリビューター間の再編や統合が活発になってくる可能性があります。
Colehower氏 持続的に成長していくためには、再編、統合の他に、“共生”が必要になると考えている。例えば、かつての競合とパートナーシップを締結することは、互いのビジネスを拡大し、持続的かつスピーディな成長をもたらす方法の一つだ。
EETJ 実際にパートナーシップを締結した事例はありますか。
Colehower氏 2年前から中国で、ECサイト「JD.com」を運営する京東商城とパートナーシップを締結し、JD.comでRS Proの製品を販売している。ただし、JD.comを通じて販売する先は、中国の国有企業のみをターゲットとしている。そうすることで、RS Componentsの中国サイトとは販売先が重複しないようにしている。
JD.comではB2C(Business to Consumer)の製品を扱っているが、京東商城は、JD.comでB2B(Business to Business)にも参入したいと考えていた。それには、われわれRS Componentsのブランド力が武器になる。RS Componentsにとっては、単独ではリーチできない顧客にアクセスできるようになる。JD.comは、B2Bだけで600万人の顧客を抱えている巨大なECサイトだ。こうしたパートナーシップを組まなければ、中国市場では到底、勝負していけないだろう。
日本でも、同様のパートナーシップ締結を進めている。近々、発表できる予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 2018年3月期【半導体商社】業績まとめ
EE Times Japanではこのほど、半導体、電子部品などを取り扱う国内半導体/エレクトロニクス商社の2018年3月期業績をまとめた。2018年3月期業績を発表した上場するエレクトロニクス商社23社のうち19社が前年比増収を達成。営業利益では、23社中21社が前年比増益となり、2018年3月期は多くのエレクトロニクス商社にとって、回復、成長の1年となった。 - 「ラズパイ」最初の10年、今後の10年
手のひらサイズの安価な小型コンピュータ「Raspberry Pi(ラズベリーパイ、ラズパイ)」は、2018年に“10周年”を迎えた。現在、ラズパイの用途は、当初の目的だった教育用途よりも、産業用途が上回っている。 - 教育・ホビーから産業用途へ、ラズパイ5年目の進化
“ラズパイ”の名で親しまれている超小型コンピュータ「Raspberry Pi」。2012年の発売当初は、“子どもたちにプログラミングを学んでもらうための楽しいおもちゃ”という位置付けだったが、今では販売台数の約半数が産業用途で使われているという。ラズパイの開発者であるEben Upton(エベン・アプトン)氏に話を聞いた。 - 加賀電子が富士通エレを買収へ、売上高5000億円規模に
加賀電子と富士通セミコンダクターは2018年9月10日、富士通セミコンダクターが所有する富士通エレクトロニクスの全株式を加賀電子が取得することで合意し、最終契約を締結したと発表した。 - ルネサス製品が8割を占める半導体商社の勝算
2016年も収まらなかった半導体業界に吹き荒れるM&Aの嵐。この業界再編は、半導体商社にとっても変革期を迎えたことを意味するだろう。そこでEE Times Japanは、半導体各社トップへのインタビュー企画を進めている。今回は、ルネサスイーストン社長の石井仁氏に聞いた。 - Avnetが語る「IoT時代の半導体商社の役割」
1921年に創業して以来、125カ国に1400社以上に上る取引サプライヤーを抱えるエレクトロニクス商社のAvnet(アヴネット)。同社が注力する分野の1つが、IoT(モノのインターネット)だ。