NICTら、毎秒1.2ペタビットの伝送実験に成功:直径0.16mmの新型光ファイバーで
情報通信研究機構(NICT)ネットワークシステム研究所とフジクラなどの研究グループは、直径0.16mmの4コア・3モード光ファイバーを用い、毎秒1.2ペタビットの伝送実験に成功した。
情報伝送能力を10倍以上に高める
情報通信研究機構(NICT)ネットワークシステム研究所とフジクラは2018年10月、北海道大学、オーストラリアMacquarie 大学MQ Photonics Research Centre (MQ)と共同で、直径0.16mmの4コア・3モード光ファイバーを用い、毎秒1.2ペタビットの伝送実験に成功したと発表した。既存光ファイバーに比べて10倍を上回る情報伝送能力を持つことになる。
毎秒ペタビットを上回る光伝送の研究はこれまで、12コア以上で、直径が0.21mmを超える光ファイバーが用いられてきた。しかし、光ファイバーの直径が大きく、曲げや引っ張りといった機械的ストレスに弱いなど、実用面での課題もあった。
今回の研究では、北海道大学が設計を行いフジクラが開発した、既存光ファイバーとほぼ同等サイズの「4コア・3モードの光ファイバー」と、MQが開発した4コア・3モードを一括で多重/分離可能な「カプラ」を用いた。さらに、368波長一括光コム光源や、1パルス8ビット相当の256QAM多値変調技術を用いて、NICTが伝送システムを構築した。
今回開発した伝送システムの概要はこうだ、まず、368波の異なる波長を持つレーザー光を一括して生成する。この光コム光源の出力光に対し、偏波多重256QAM変調を行い、12分割した後に遅延差を付けることで、疑似的に異なる信号系列とする。
実験では各信号系列を、12の空間チャネルに対応した導波路に導入。4つのコアに対して、同時に異なる伝搬モード(LP01、LP11a、LP11b)を多重化し、光ファイバーに入射した。長さ3.37kmの4コア・3モード光ファイバーで伝送した後、コアごとに各モード信号を光学的に分離し、6×6規模のMIMO処理を行って信号を分離し、伝送誤りを測定した。
システムの伝送能力を最大化するための検証も行った。変調方式として64QAM、128QAM、256QAMを比較した結果、256QAMの時に最大伝送容量となることが分かった。
誤り訂正を適用したことで、システムの波長依存性なども現れたが、368波長ではほぼ均等に、安定したデータレートが得られ、合計で毎秒1.2ペタビットの伝送を実現した。
NICTらの研究グループは、次世代光通信インフラの基盤技術の確立に向けて、引き続き実用化研究を加速する。また、国際標準化などにも取り組む考えである。
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