Arm、「Neoverse」で再びサーバ市場を狙う:Arm TechCon 2018(2/2 ページ)
Armは2019年をメドに、パートナー企業との協業により、サーバやネットワーク、ストレージシステムなどに向けて最適化されたコアやIP(Intellectual Property)、SoC(System on Chip)などを発表していく予定だという。
GPUやSoCもサポートか
Neoverseブランドは長期的に、さまざまな種類のCPUやGPU、各種コア、顧客企業のSoCなどもサポートすると期待されている。Armは、Neoverseコアのカスタマイズを希望する顧客企業にも、アーキテクチャのライセンスを提供する予定だ。
Neoverse製品担当マネジャーを務めるBrian Jeff氏は、「全ての製品に関して、ソフトウェア互換性の実現に注力したい」と述べる。
アナリストたちは、こうした動きに賛同している。米国の市場調査会社であるThe Linley GroupのアナリストであるLinley Gwennap氏は、「これまで、スマートフォンで使用しているものと同じコアを使って、エンタープライズ市場でも競争が展開されてきた。ただし、性能や信頼性が大きく異なるため、別のコアを展開することは役に立つはずだ」と述べている。
Gwennap氏は、「これらのコアは、アウトオブオーダーのパイプラインやECC、幅広いパリティチェックなどを使用して、命令レベルの並列性に焦点を絞っている。また、Intelの『AVX(Advanced Vector Extensions)』などの拡張命令を適用することも可能だ」と述べる。
米国の半導体市場調査会社であるInsight64で主席アナリストを務めるNathan Brookwood氏は、スマートシティーやコネクテッドカー市場を引き合いに出しながら、「NeoverseとCortexは、Intelの『Xeon』『Core』ブランドのようになるだろう。Armにとって、汎用サーバ市場への参入は難しいことだったが、サーバ市場は、汎用システムよりはるかに規模が大きい」と述べている。
Armは、「当社のプロセッサは既に、インフラ市場全体において出荷数ベースで27%のシェアを占め、優勢を確保している」と主張する。一方でアナリストたちは、「同市場は『MIPS』や『POWER』を含め、各種レガシーアーキテクチャなどを使用する、かなり細分化されているが、プロセッサの売上高ではIntelがけん引している」と指摘している。
Armはこれまで主に、データセンター向けアプライアンスとストレージコントローラーの分野において、成功を収めてきた。サーバクラスの設計に大きなエネルギーを注いできたが、今まで大きなけん引力を発揮することはできなかった。ArmのHenry氏は、Arm TechCon 2018の会場で、進捗(しんちょく)状況に関する発表を確約した。
Gwennap氏は、「この分野では、モバイルSoCの価格が50米ドル未満であるのに対し、100〜1000米ドルで販売することができるため、Armにとっては戦略目標となる。サーバ用プロセッサは、市場の中でも最もうまみのあるところだが、Armのサーバ向けSoCは、新たに縮小傾向の時代に突入した」と述べる。
サーバ向けプロセッサをめぐる動き
同氏は、「ここ数年は、めまぐるしい動きも目立った。Qualcommは『Centriq』を発表したものの、開発がうまくいっていないのではないかといううわさもある。Applied Micro Circuits(AMCC)の『XGene』が新興企業に売却され、『ThunderX』を持つCaviumは、Marvell Technology Groupによる買収が発表された」(同氏)
一方AMDは、より競争力の高い、「Zen」コアをベースとしたx86プロセッサ製品シリーズを発表している。Gwennap氏は、「AMDが失速した時、誰もがArmの動きに大きく期待したが、現在はAMDの方がはるかに好調だ。データセンターのユーザーにとっては、二次供給者を確保できるため、Armの必要性がそれほどない」と述べる。
「Qualcommは、米中の貿易戦争や、Appleとの特許係争に巻き込まれているため、Centriqの開発を適切に進められる体力がなく、計画倒れになる可能性がある」(Gwennap氏)。同氏は「その結果、サーバ向けチップベンダーは、x86の世界にとどまることとなった。ただし、Armは別だと考えている」と続けた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ARMの新ベクトル命令「SVE」、ポスト京に採用へ
米国で開催された「Hot Chips 28」において、ARMが新しいベクトル命令「SVE(Scalable Vector Extensions)」を発表した。富士通が、2020年を目標に開発しているポスト「京」スーパーコンピュータに採用されることが決まっている。 - パートナーを重視するArmのIoT戦略、日本市場に期待
Armの日本法人であるアームは2018年5月10日、東京都内で記者会見を開催し、同社が提供するIoT(モノのインターネット)プラットフォームである「Arm Mbed」の事業戦略について説明した。 - ArmのAI戦略、見え始めたシナリオ
機械学習についてなかなか動きを見せなかったArmだが、モバイルやエッジデバイスで機械学習を利用する機運が高まっているという背景を受け、少しずつ戦略のシナリオを見せ始めている。 - Arm MLプロセッサ、明らかになったその中身
2018年8月に開催された「Hot Chips 30」では、Armの「ML Processor(MLプロセッサ)」の中身が明らかになった。その詳細を解説する。 - Armの独壇場にはならない? AI向けコア市場
CPUコアにおいて、多くの分野で高いシェアを誇るArmだが、AI(人工知能)エンジン向けチップのコアでは、独壇場とはいかないようだ。 - Armが「Cortex-A76AE」を発表、Split-Lockを搭載
Armは2018年9月26日(英国時間)に、自社のエコシステムパートナーに向けた新しいプログラム「Arm Safety Ready」と、Split-Lock機能を搭載したSoC(System on Chip)開発者向けのアップグレード版プロセッサコア「Cortex-A76AE」を発表した。いずれも、ADAS(先進運転支援システム)および自動運転車の時代に求められる高い安全基準に対応することが可能だ。