四半世紀をへて復刻したゲーム機、中身は中国製ICに“総入れ替え”:製品分解で探るアジアの新トレンド(32)(2/2 ページ)
過去の大ヒットゲーム機の復刻版として、2018年に発売された「NEOGEO mini」。約30年の時をへて市場に再登場したこのゲーム機の中身は、かつのように米国製、日本製の半導体ICではなく、中国製ICが占めていたのだった。
“非Arm”コアを使う
次に、骨格として採用されているActions Semiconductorのチップセットを見ていこう。図3はNEOGEO miniに搭載されている「ATM7013」プロセッサと「ATM2605」電源ICをチップ開封し、薬品を使い配線層を除去し内部を観察できるようにした写真である(当社にはさらに細部まではっきりわかる詳細写真がある)。
プロセッサ側ATM7013は、GEOGIO mini以外にも、多くの中国製タブレットに採用実績がある製品だ。近年、モバイル系プロセッサには多くの半導体がArmのCPUコアやGPUを使うが、Actions SemiconductorのATM7013はCPU、GPUともにArmではないコアが採用されている。CPUはMIPSの「74Kf」。GPUにはVivanteの「GC800」が使われる。
“非Arm”のコアが使われるという点でも中国には特徴がある。中国はArm系コアを使う会社も多い。Actions SemiconductorのようにMIPSを使う会社としては、北京に拠点を置くIngenicが有名だ。また、C-SKY Microsystems(中国のAlibaba Groupが買収した)が手掛けるコアなど、中国独自のCPUコアを用いたプロセッサは、世界的なドローンメーカー(どこのメーカーかは、EE Times Japanの読者の皆さんであれば、記載しないでもお分かりかと思う)が採用している。
このように、非Armコアの実績も多く存在しているのだ!!
電源IC側ATM2605は、DC-DCコンバーターなどの電源機能に加え、7.1チャンネル対応のオーディオCODECやA-Dコンバーター/D-Aコンバーターを搭載するアナログ回路を1チップに統合したもの。プロセッサ側がオールデジタル1チップ、電源側がオールアナログ1チップという構成だ。つまり、2つのチップでデジタル処理からアナログ機能までをカバーしているのである。音声処理からセンサー接続までをアナログで担い、プロセッシングをデジタルで行うというQualcommやIntel、MediaTekなどのチップセットと同じ構成を持っている。
「点」ではなく、「面」を形成している
中国半導体は“点”のデバイスではなく、システムの中できちんと“面”を形成しているわけだ。ユーザーにとっては、デジタル、アナログがセット化されていれば、使いやすい。
NEOGEO miniに搭載されているオーディオパワーアンプを手掛けるNSIWAYも、多くの製品で採用実績の高いチップである。プロセッサで処理されたオーディオが、アナログチップでCODEC処理され、アンプ⇒スピーカーで音を出す。ここまでが実際にセット化されていて、中国の多くの製品で使われている。
図4は、左から2016年に任天堂から発売された「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」、2017年に発売された「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」、2018年に発売されたNEOGEO miniのプロセッサと電源ICの一覧である。いずれも中国製プロセッサと中国製電源ICの組み合わせだ。また、いずれのチップもタブレットやセットトップボックス、カーナビゲーションシステム、ボードコンピュータなど多くの他製品でも採用実績のあるチップとなっている。
![](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/1810/23/mm3017_181022tekanalye4.jpg)
図4:左から「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」、そしてNEOGEO miniと、それらに搭載されているチップの一覧 (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート
多くの製品に採用されることで、量産効果も生まれやすく、またチップそのものの実績も大きいため、不具合も少ないものになっているはずだ。
今後も復刻版製品がいろいろ出てくるようだ。弊社では本業たる先端製品の分解、解析だけでなく、率先して復刻版や過去製品も分解調査し、報告していく予定である(1990年代の代表的携帯電話や2000年代の初期スマホなども続々と分解しチップ開封を行っています。点ではなく、線の解析を行うために……!!)
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