テスラの自動運転車開発、マスク氏の計画は甘過ぎたのか:気長に待つべき?(3/3 ページ)
Teslaが完全な自動運転機能のオプション販売を開始してから、2年が経過した。Elon Musk(イーロン・マスク)氏は楽観視し過ぎたのだろうか。それとも、自分の信奉者たちが、同氏が描いた夢のロードマップを、喜んで進んでくれるはずだと信じていたのだろうか。
センサーの役目
自動運転車が膨大な処理能力を必要とすることは、周知の事実だ。しかし、どのセンサー技術メーカーに聞いても、問題はそこでは終わらないということが分かる。
Analog Devices(ADI)の自動輸送および自動車安全部門でバイスプレジデントを務めるChris Jacobs氏は、完全な自動化を阻む壁は非常に高いとの見解を示した。中でも、最も高い壁は、HAV(Highly Automated Vehicle:高度に自動化された自動車)に対する規制と、HAVに関連した保険がないということだ。いずれの問題もすぐに解決するわけではないという。そして、同様に重要なのが、高い解像度と、より優れたアルゴリズムを備えたセンサーである。
Jacobs氏は「既存のADASシステムは警告システムとして機能できるが、レベル3の動作ということになれば、実現まで長い道のりがある」と述べた。
今日使用されているレーダーの多くは、測定する距離と解像度という面で、大きく進化していない。
Jacobs氏は、新世代のイメージングレーダーを「utility player(オールラウンドプレーヤー)」と呼び、それらに高い期待を寄せていると述べた。そのような高解像度レーダーは、重要な役割を担うことが見込めるものの、幅広く利用されるようになるのはレベル2、レベル3の自動運転車やレベル4のロボットタクシーがお目見えする予定の2020年になる見込みだという。
Jacobs氏はLiDARについて、「車載グレードの性能、価格、耐久性に達するには、まだ先は長い」との見解を示す。一方で同氏は、LiDARが他とは異なる役割を担うようになると考えている。
夜間に時速300kmでアウトバーンを走行していると想像してみてほしい。突然、道路の真ん中にトラックのタイヤがあるのが目に入った。自動運転車が最小の距離(=レーダーの反射範囲)でタイヤを検知するには、やはりLiDARに頼らざるを得ない。カメラやレーダーでは難しいからだ。Jacobs氏は、「LiDARが強みを発揮できるのは2025年以降になる可能性がある」としながらも、LiDARが完全な自動走行車には必須であると主張した。
もう一つの重要なセンシング要素として、慣性計測装置(IMU)がある。Jacobs氏はIMUを「陰のヒーロー」と呼び、高性能IMUはデッドレコニング(自己位置推定)アプリケーションやナビゲーションに不可欠であると述べた。IMUは航空機やミサイルを安定化する。例えば、自動運転車がトンネルに入るなどして、突然光の条件が変わると、カメラは不安定になる。レーダーはトンネルの壁を跳ね返り始める。IMUは、自動運転車が車線を外れるのを避けるための最終手段だと、Jacobs氏は主張する。
Musk氏が自動走行車にLiDARは必要ないと主張したのは有名な話だが、専門家のほとんどはそれに異議を唱えている。
VSI LabsのMagney氏は、「Teslaは、過去2年間にFSDで収集した金額を返却するかどうかについてコメントしていない。Teslaは、FSDへの取り組みを続けるつもりであり、将来的にはOTA経由で同オプションを顧客に提供するのではないか」と述べる。
その通りかもしれないが、いずれにせよTeslaは、FSDの提供時期について言及するのをやめている。
Magnes氏は、「恐らくTeslaは、FSDの購入者からの集団訴訟や、政府からの追求を懸念していたのだろう。Teslaの開発意欲がどうであれ、FSDをオプションから外したのは、FSDをすぐに実現するのは不可能だと判断したからだと考えられる」と述べた。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- TeslaとMobileyeの関係は終わったのか
Tesla Motorsの「Model S」で、自動運転中に死亡事故が発生した。同社にビジョンプロセッサを提供していたMobileyeはこれを受け、Teslaへのチップ供給は現行の「EyeQ3」で終了する予定だと発表した。MobileyeのCTOは、半導体メーカーと自動車メーカーの関係性は変わる必要があると述べている。 - テスラの死亡事故、詳細は分からないままなのか
米国家運輸安全委員会(NTSB)が発表した、Tesla Motors(テスラ・モーターズ)「Model S」による死亡事故の調査報告書には、車載カメラが記録していた内容について詳細が書かれておらず、失望の声が上がっている。 - おうちにやってくる人工知能 〜 国家や大企業によるAI技術独占時代の終焉
今回のテーマは「おうちでAI」です。といっても、これは「AIを自宅に実装すること」ではなく、「週末自宅データ分析およびシミュレーション」に特化したお話になります。さらに、そうなると避けては通れない「ビッグデータ」についても考えてみたいと思います。そして、本文をお読みいただく前に皆さんにも少し考えていただきたいのです。「ビッグデータって、いったいどこにあるのだと思いますか?」 - “自動運転版Android”を作る、BaiduのApollo計画
2017年4月19日にApollo計画を正式に発表したBaidu。同社は、「Apolloは、完全にオープンな自動運転エコシステムである。自動車業界のパートナー企業や自動運転をサポートし、自動車向けソフトウェアおよびハードウェアシステムを組み合わせて、完全な自動運転車システムを迅速に構築することができる」と述べている。Apolloのパートナー数は既に100社に上っている。 - XilinxがDaimlerと協業、「自動運転の主役はFPGA」
Xilinxは2018年6月26日(米国時間)、Daimler AGと自動運転などの車載システム開発で協業すると発表した。Xilinxの車載プラットフォームをDaimler AGに提供し、Mercedes-Benzブランドの市販車に搭載する予定だ。 - ドライバーの意図はくめない? 自動運転の課題
アイティメディアがモノづくり分野の読者向けに提供する「EE Times Japan」「EDN Japan」「MONOist」に掲載した主要な記事を、読みやすいPDF形式の電子ブックレットに再編集した「エンジニア電子ブックレット」。今回は、交通ルールには従うことができる自動運転車の“意外な”弱点をまとめます。