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魅力あるIoTエッジの開発アプローチに垣間見るプラットフォーム提供の在り方製品分解で探るアジアの新トレンド(33)(1/3 ページ)

今回は、スマートフォン用チップセットを流用したクラウド翻訳機「POCKETALK W」や、中国チップ群で面を形成するIoTエッジ開発キット「M5Stack」を解剖し、その開発アプローチから垣間見えるプラットフォーム提供の在り方を考える。

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スマホで実績あるプラットフォームを生かすアプローチ

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 スマートフォンで培われた半導体プラットフォームを応用した製品が増えている。例えば、QualcommのSnapdragonプラットフォームを用いたスマートスピーカーやスマートウォッチ、VR機器、ドローンなどが続々と製品化されている。スマートフォンのプラットフォームは、おおむね5つのチップで構成されている。「(1)プロセッサ(プロセッサにはLTE通信モデムも含む)」「(2)電源制御IC」「(3)LTE通信用トランシーバー」「(4)オーディオIC」「(5)Wi-Fi、Bluetooth、GPS」だ。

 応用製品もこれらの組み合わせを骨格にすれば、すぐに完成する。スマートスピーカーならば(3)を外せばよいし、ドローンならば(3)と(4)を外せばよい。このようなプラットフォームの展開はQualcommのみならずチップセットを有するメーカーは、常に行っていることだ。

 図1は近年普及が進んでいるクラウド翻訳機と呼ばれる「音声認識→クラウド送信→翻訳→結果受信→音声合成」の中でもヒット商品となっているソースネクストのPOCKETALK Wの様子である。74カ国語ものクラウド翻訳ができる優れた商品だ。


図1:クラウド翻訳機「POCKETALK W」(2018年 新モデル) (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 そもそもこの連載ではできる限りユニークで話題性のある製品を扱いたいと思っている。分解も解析もされない商品は正直言って「魅力がないもの」と言ってよい。分解されるということは、話題性や先進性があり、分解に値する魅力ある商品の証だ。分解対象にならなくなったときが問題だ。

 筆者が代表と務めるテカナリエでは独自解析結果についてはこの連載のように、その一部を公開しているが、実際には、さまざまなメーカーや調査会社が内々に分解しているケースが多い。弊社も解析結果を公開できないカスタム解析も多数行っている。そうした分解対象は、商品価値が高いものばかりだ。

中国スマホの実績が生かされる「POCKETALK W」

 POCKETALK Wは第2世代の製品になる。初代は3G(第3世代移動通信)までに対応し、63カ国語をサポートしていたが、第2世代のWはLTE通信に対応する。そのために内部の処理チップを大幅に刷新した。初代は3G通信やWi-Fi/Bluetoothを核として音声認識、合成処理が行えるスマートフォンで実績の大きい台湾MediaTekのMT6580チップセットを採用していた。Qualcommが上記のようにスマートフォンの応用として続々と新たな応用分野へと広がっているように、MediaTekのプラットフォームもクラウド翻訳機やスマートスピーカーでの採用を広げている。スマートスピーカーとクラウド翻訳機はほぼ同じチップ構造になっている。

 スマートスピーカーとクラウド翻訳機での最大の違いは、バッテリー駆動か否かだけである。ハードウェア構成は同じだがクラウド翻訳機は翻訳に特化することで、他の機能を止める(電源遮断など)ことで電池の寿命を大幅に伸ばしている。プラットフォームはカバー範囲の大きい機能を持つが、ユーザーが使わない機能には電源を給電しないことで消費電力を抑える使い方が容易に行えるようになっている。新たな機能が必要ない場合には既存のチップセットを使い切る方が合理的だ。図2は、POCKETALK Wの内部基板と、主要なチップのピックアップの様子である。


図2:「POCKETALK W」の基板と主要チップ (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 LTE通信に対応したMediaTekのMT6739チップセット(図には掲載していないが実際にはMediaTekのチップが4個セットで採用される)と通信用パワーアンプやディスプレイ関連の中国チップが多数使われている。

 中国スマートフォンの第2集団の中身と類似するものになっているのだ。パワーアンプとして中国のVanchip Technologiesが採用されているが、本製品固有のものではなく、中国の多くのスマートフォンで採用される実績の多い組み合わせである。またChipone Technologyのチップも実績が多数ある。

 こうした中国スマートフォンでの実績がそのまま切り出され、アプリケーションとしてクラウド翻訳に特化したものがPOCKETALK Wということになる。非常に優れたコンセプトの製品だと思う。スマートフォンのサブ機器として使うことやBluetoothを介して車載オーディオ機器と連動させるなど、利用の幅は広い。

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