全固体電池、界面の規則的原子配列が高性能の鍵:界面抵抗値は従来の40分の1
東京工業大学、日本工業大学および、産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、界面抵抗が極めて小さい高性能な全固体電池を実現するためには、界面における原子配列が、規則的であることがポイントになることを発見した。
極めて低い界面抵抗で高速充電を実現
東京工業大学物質理工学院の一杉太郎教授、日本工業大学の白木將教授および、産業技術総合研究所(産総研)物質計測標準研究部門の白澤徹郎主任研究員らによる研究グループは2018年11月、界面抵抗が極めて小さい高性能な全固体電池を実現するためには、界面における原子配列が、規則的であることがポイントになることを発見したと発表した。
固体電解質を用いた全固体電池は、次世代EV(電気自動車)用二次電池などの用途に注目されている。このため、リチウムイオン伝導性が高い固体電解質と電極材料の開発が進む。しかし、固体電解質と電極が形成する界面で高くなる抵抗が、実用化に向けた課題の一つとなっていた。界面抵抗が高いと、大電流で使用する時にエネルギー損失が大きくなり、高速に充放電することが難しくなるからだ。
そこで研究グループは、界面抵抗が高くなる原因の解明に取り組んだ。界面抵抗を評価するため、薄膜技術と真空技術を活用し、全固体電池を作製した。この試料は酸化アルミニウム(Al2O3)単結晶基板上に、集電体として金(Au)を、正極としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)を、固体電解質としてリン酸リチウム(Li3PO4)を、負極としてリチウム(Li)を、それぞれ積層した構造となっている。
研究グループは今回、試料の固体電解質(Li3PO4)と正極(LiCoO2)の界面におけるイオン電導性を評価した。この結果、界面の作製条件によって、界面抵抗の値は異なることが分かった。例えば、界面が良好な場合に抵抗は5.5Ωcm2と極めて低い値を示した。この数値は、従来の全固体電池の40分の1である。液体電解質を用いた場合に比べても6分の1と低い。界面抵抗を低く抑えることで、高速充電が可能になるという。
研究グループは、非破壊で測定できる表面X線回折により、固体電解質と正極との界面構造について調べた。この結果、界面抵抗が5.5Ωcm2の面では、界面近傍でも原子が規則的に配列した結晶性を有していることが分かった。これに対して、180Ωcm2という高抵抗界面は、もともと原子が規則的に配列していたが、界面形成時に電極表面の原子配列が乱れた。
今回作製したLiCoO2エピタキシャル薄膜の結晶方位では、薄膜に平行する内面方向だけにリチウムイオンが移動することができる。薄膜に対して垂直に形成された結晶粒界が、薄膜内部への通り道になるという。高抵抗界面では、電極表面における原子配列の乱れによって、電極表面でのリチウムイオンの拡散と結晶粒界への拡散が抑制された。
研究グループは、固体電解質と電極を形成するためのプロセス工程を最適化し、界面での規則的原子配列を維持することによって、極めて小さい界面抵抗の高性能全固体電池を実用化できるとみている。
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