小型アンテナパネル1枚で、5Gの高速通信を実現:4方向への同時通信が可能に
富士通研究所は、1枚の小型アンテナパネルで5G(第5世代移動通信)の高速通信を可能とする技術を開発した。2021年ごろの実用化を目指す。
多数のアンテナ素子が発する信号の位相を高精度に制御
富士通研究所は2018年11月、1枚の小型アンテナパネルで5G(第5世代移動通信)の高速通信を可能にする技術を開発したと発表した。
高速で大容量の通信を実現するため、ミリ波帯を活用した5Gシステムの開発が進む。10Gビット/秒を超える高速通信が可能になる半面、障害物などによる電波の遮断を防ぐため、基地局を数十m間隔で配置する必要がある。このため、基地局装置も規格への対応と同時に、小型化が要求されている。
富士通研究所は、アンテナ素子から発信される信号の位相を、1度以下の精度で調整できる技術を活用したフェーズドアレイチップを開発した。このフェーズドアレイチップは1個でアンテナパネル上に設けた8個のアンテナ素子を制御することが可能だ。
また、フェーズドアレイチップ間の位相差を検知する回路を実装した。これにより、64〜256個のアンテナ素子を搭載したアンテナパネルにおいても、高い精度で位相制御を行うことができるという。複数の端末が同時に通信していても、別の端末に電波が漏れこむ不要放射の差を20dB以上に保つことができるため、10Gビット/秒を超える通信を1枚のアンテナパネルで行うことが可能となった。1枚のアンテナパネルで4人のユーザーと同時に通信することができる。
富士通研究所は、開発した技術を用い13cm角のアンテナパネルを試作、検証を行った。アンテナパネルには、128個のアンテナ素子と16個のフェーズドアレイチップを実装している。1枚のアンテナパネルで1人当たり2.5Gビット/秒(合計で10Gビット/秒)の通信を行い、4方向へのビーム多重が可能なことを確認した。
富士通研究所は今後、性能や信頼性のさらなる改善に取り組み、2021年ごろの実用化を目指す。
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