米国対Huawei、加速する全面対決の姿勢:衝撃を与えた幹部の逮捕(2/2 ページ)
Huaweiの経営幹部がカナダで逮捕されたことを受け、エレクトロニクス業界にも衝撃を広がっている。Huaweiをめぐり、米中による全面対決の姿勢がいっそう濃くなっている。
トランプ米大統領への懸念
そして4つ目は、トランプ米大統領に関連する要素だ。
ロイター通信によると、トランプ大統領は2018年12月11日に、Meng氏に対する司法省の訴訟について、「もし米国の国家安全保障上の利益にかなう上、中国との貿易協定の成立につながるのであれば、自ら介入する可能性がある」と示唆したという。
このような玉虫色の態度には、中国に対する欧米の矛盾した行動が、意図せず象徴されていることが分かる。Huaweiの経営幹部が逮捕された件については、相反するさまざまな意味合いが示されているため、非常に分かりにくく、目的も漠然としている。
Meng氏逮捕の引き金となったのは、明らかにHuaweiが、米国のイラン関連の制裁措置に違反したためだ。カナダ政府の弁護士は、ブリティッシュコロンビア最高裁判所で行われた保釈聴聞会において、「Meng氏は2009〜2014年に、Huaweiの子会社であるSkycomを利用して、イランに対する制裁措置をかいくぐっていた」と述べている。
このような明確な逮捕の理由とは別に、Huaweiの通信機器に関しては、安全性の問題が一貫して存在する。Huaweiの創設者であるRen Zhengfei氏は、中国人民解放軍の元幹部であり、現在も、ライバル国家に対して諜報活動を行うための機器を開発することで中国政府に取り入っているのではないかとする見方もある。欧米各国の中で、政府がHuaweiに対して何らかの措置を講じたり検討している国としては、ニュージーランドと米国、オーストラリア、カナダ、英国が挙げられる。
ニュージーランドと米国、オーストラリアは既に、5G(第5世代移動通信)対応ネットワーク設備の供給を禁止している。またカナダは、Huawei製品の安全性について見直しを行っているところだ。英国の通信接続業者British Telecommunications(BT)は、5Gコアネットワークから、Huaweiのキットを除外したと報じられている。
EUの技術コミッショナーであるAndrus Ansip氏は2018年12月初旬、「各国とも、中国メーカーに対して懸念を抱く必要がある」と指摘している。
仮に、このような安全上の脅威が実際に存在するとしよう。また同時に、通信機器市場の中でも、特にNokiaやEricssonなどの欧州メーカーが、Huaweiの衰退によって確実に利益を得られる位置付けにあるということを認識してみよう。
Dell’Oro Groupが最近発表したレポートによれば、Huaweiは現在、通信機器市場において28%のシェアを獲得しており、2015年からは4%増加したという。
Dell’Oro Groupが指摘するように、Huaweiの通信機器市場における売上高は、NokiaとEricssonの売上高を合計した金額と同程度に達する。さらに、Huaweiの過去4年間における売上高シェアの伸び率が最も高いのは、コアとルーター、光伝送市場だという。
中国が勢いを拡大していることに対し、恐れを隠すことはやめよう。現在では多くの欧米企業が、世界市場の中で中国との戦いに苦戦している。しかし、こうした中で最も恐れられているのが、米司法省や、中国商務省の一派などによる、予測できない壊滅的な政治動向だ。中でも最も懸念されているのは、衝動的なトランプ大統領の動きである。
中国のある経営幹部は2018年11月に、EE Timesのインタビューの中で、「現在、中国のビジネスコミュニティーが最も懸念しているのは、トランプ政権が強制的に遂行する通商政策に、一貫性がないことだ。国家のトップが、さまざまな課題(国防や国家安全保障、貿易、外交など)に対する考え方をすぐ衝動的に変えてしまうことから、米国と中国のビジネスリーダーたちは、貿易関係における自らの方向性を見失っている」と述べている。
もしトランプ大統領が、Huaweiの経営幹部逮捕の件になんらかの介入を行った場合、中国と北米の両方のビジネス界に破壊的な影響を及ぼす可能性がある。その予期せぬ結果として挙げられるのが、中国と米国の間で出張旅行が相互に制約されたり、パートナー提携や投資などの互恵的関係が大幅に縮小することなどだ。
実際に、今回のHuaweiの件が発生する前に、既に一部の互恵的関係が失われようとしている。
また投資の面では、トランプ政権が、中国による米国の機密技術へのアクセスを防御すべく、新たに厳格な見直しシステムを導入している。これは、対米外国投資委員会(CFIUS:The Committee on Foreign Investment in the United States)によって策定された規則の範囲を超える方策だという。
CFIUSが合併買収活動に関与する中、「2018年外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA:Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2018)」は現在、米国が国家安全保障に対する脅威になるとみなした外国取引を、より幅広く阻止することが可能な、新たな手段として活用されている。ここには、技術や電気通信などを手掛けるさまざまな最先端企業の少数株や合弁事業も含まれる。
英国の経営幹部の1人は、EE Timesが2018年11月に行ったインタビューの中で、「米国と中国の貿易摩擦による影響がいかに大きいかということに驚いた」と語っている。もちろんこれは、HuaweiのCFOが2018年12月に逮捕される前のことだ。「エンジニアリングや技術の話と政治の話が、ここまで直接的に関わっているのを見たことがない」(同氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “余計なもの”って何? 「Mate 20 Pro」の疑惑を晴らす
Huaweiの2018年におけるフラグシップ機「Mate 20 Pro」。この機種には、“余計なもの”が搭載されているとのうわさもある。本当にそうなのだろうか。いつものように分解し、徹底的に検証してみた。 - 半導体プロセスの先導役はPCからモバイルに、2017年は“真の転換点”だった
2017年は、プロセッサに適用する最先端製造プロセスの導入において、モバイルがPCを先行した。その意味で、2017年は半導体業界にとって“真の転換点”ともいえる年となりそうだ。今、PC向けとモバイル向けのプロセッサは、製造プロセスについて2つの異なる方向性が見えている。 - Huaweiが最新の7nm SoCを発表、シェア拡大に弾み
Huaweiは、ドイツ ベルリンで2018年9月初頭に開催された家電展示会「IFA 2018」において、新しいフラグシップSoC(System on Chip)「Kirin 980」を発表した。アナリストたちによると、Huaweiは、Appleを追い抜いて世界スマートフォン市場第2位の座を獲得した今、新型チップを発表することにより、さらに市場シェアを拡大していくとみられる。 - ファーウェイ製スマホ分解で見えたアップル/サムスンを超えた“中国のチップ開発力”
スマートフォン大手の中国Huawei(ファーウェイ)は、ハイエンドモデルだけでも年間2モデル発売する。2016年も6月に「P9」を、12月に「Mate9」を発売した。今回は、これら2つのハイエンドスマートフォンを分解し、どのような違いがあるか比べてみる。